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[イワクニ 地域と米軍基地] 極東最大級 影響鮮明に 艦載機移転1ヵ月

 米軍岩国基地(岩国市)へ、厚木基地(神奈川県大和、綾瀬市)の空母艦載機約60機の移転が完了して30日で1カ月。この間の岩国基地周辺の騒音回数と苦情件数は月別で最多になり、極東最大級の航空基地となった影響が鮮明に表れた。対照的に厚木の騒音は減少傾向にあるが、艦載機を含めた米軍機の飛来は相次ぐ。地元では、厚木基地が引き続き拠点として使われることへの警戒感は根強い。二つの基地周辺の今をみる。(松本恭治、久保田剛)

ごう音の質・量変化 10機連続で離陸も

 4月最後の平日だった27日。午前8時42分、FA18スーパーホーネット戦闘攻撃機が2機編隊で岩国基地を飛び立った。3月に移ってきた米海軍の空母艦載機だ。その後、既存の海兵隊機も加わり、分刻みで離着陸や飛行を繰り返した。艦載機と海兵隊機の計約120機が配備された基地からのごう音は、質量ともに変容した。

 中国新聞は27日までの1週間、米軍機の運用状況を確認した。滑走路を見渡せる場所で、記者が朝から夜まで離着陸回数の傾向を探った。土日の飛行は少ない。しかし、平日はスーパーホーネット10機以上が連続で離陸するケースがあった。

 厚木基地の監視を続けている「厚木基地を考える会」の矢野亮代表(66)=神奈川県座間市=は「厚木で10機以上が連続で飛び立つことはほとんどなかった。岩国の駐機数が増え、戦闘訓練を一度に行う機体を増やしているのではないか」。軍事評論家の稲垣治氏も「岩国は海兵隊機もいるため、厚木とは違う運用をすることは十分考えられる」と指摘する。

苦情件数急増

 基地近くでは、騒音の測定回数が急増した。市が5カ所に設けている測定器のうち、基地南側の尾津町では今月、1189回(26日現在)を記録。2010年5月の滑走路の沖合移設後、初めて千回を超え、月別最多だった今年1月(883回)を既に上回った。騒音の最大値は103・3デシベル。100デシベルは電車が通る時のガード下に相当する。

 「目が覚めた」「テレビが聞こえない」―。市民から市に寄せられる航空機騒音の苦情件数も急増した。26日時点で約630件と月別最多を更新。これまでの最多は、激しい騒音を伴う陸上空母離着陸訓練(FCLP)が岩国で5日間行われた1998年1月の589件だった。

 基地側は「騒音による地元への不都合は遺憾」としつつ、「全ての飛行は高いレベルの軍事的な即応態勢を維持する上で不可欠」という。

全容まだ不明

 次のFCLPは5月3~13日、硫黄島(東京)で予定されている。その事前訓練なのか、滑走路に着陸後すぐに離陸する「タッチ・アンド・ゴー」を繰り返す艦載機も確認された。

 天候不良などのためFCLPが硫黄島でできない場合の予備施設として、岩国など国内3基地が指定された。その後、5月中旬から下旬までの4日間程度、艦載機のパイロットが空母への着艦資格を得る訓練(CQ)が九州沖で実施される。岩国で夜間の離着陸が増える可能性がある。

 「市民生活にどんな影響があるのか。1年ほどかけて運用実態を把握する必要がある」と岩国市の福田良彦市長。艦載機移転に伴う変化の全容は、まだ明らかになっていない。

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厚木の騒音 減少傾向 拠点の継続に警戒感

 「テレビの音をかき消すような騒音はなくなった」。厚木基地南側のすぐそばにある公園。犬の散歩で毎日訪れる近くの上田秀子さん(68)が空を見上げた。最近は夜や早朝の騒音も気にならない。「本当に楽になった。岩国の人には悪いけれど、ほっとした」

 激しい騒音の主因だったスーパーホーネット4部隊(計48機程度)は、昨年11月から段階的に岩国基地に移った。厚木に今、残っている米軍機はヘリコプター部隊だけ。基地を共同使用している海上自衛隊の哨戒機なども配備されている。

 「今年に入って、子どもが騒音に驚き、しがみついてくることがなくなった」。飛行ルート直下の地区に住み、3歳の娘を持つ会社員の男性(45)も移転の効果を実感する。

5年間で最少

 確かに騒音は減少傾向にある。昨年12月から今年3月までの4カ月間、大和、綾瀬両市がそれぞれ設けた計2カ所の測定器が記録した騒音回数は計8787回。前年同期に比べて約4割弱減り、過去5年間で最少だった。

 しかし、両市は楽観視していない。厚木基地が今後、どのように運用されるか見通せないからだ。艦載機の関連施設は撤去されておらず、5月に予定されるFCLPでは岩国とともに予備施設に指定された。

 綾瀬市基地対策課は「岩国に移った艦載機が今月も飛来した。編隊で訓練に来れば、騒音はまた増える」と指摘する。基地から約100メートルに住む石郷岡忠男さん(74)=綾瀬市=も心から歓迎できないでいる。「米軍は、空いた厚木を本当に使わないのか」。懸念はくすぶる。

関係者も移住

 一方、厚木基地関係者の岩国移住が始まっていた。「常連さんがいなくなるのは寂しい」と大和市の焼き鳥店「ラミラミ」の店長石田航さん(27)。身ぶり手ぶりの英会話でもてなし、基地関係者でにぎわう。司令官も訪れたこともある。最近、基地関係者の送別会が増えたという。

 移転前は約1万人とされる厚木基地の米軍関係者。今年後半までに約3800人が岩国へ引っ越す予定だ。基地が広がる大和、綾瀬両市の人口はそれぞれ約23万5千人、約8万4千人。艦載機の移転を求めてきた両市だが、今後、基地関連の交付金が減らされる可能性がある。

 交付金はこれまで大和市で年に10億円程度、綾瀬市で20億円程度とされる。市民サービスの財源だった交付金の取り扱いはまだ決まっていない。両市は基地の土地返還を訴えているが、その予定は現時点ではない。移転後のまちづくりにも不透明さがつきまとう。

米空母艦載機移転計画
 米海軍の第5空母航空団に所属する4機種の空母艦載機約60機を、厚木基地から岩国基地へ段階的に配備する計画。岩国市や山口県などは昨年7月、国に移転容認を伝えた。国の説明によると、8月に第1陣のE2D早期警戒機5機が到着。11~12月、FA18スーパーホーネット戦闘攻撃機2部隊(24機程度)とEA18Gグラウラー電子戦機部隊(6機程度)、C2輸送機1機が配備された。今年3月28~30日、最後のスーパーホーネット2部隊(24機程度)が移り、全ての移転が完了した。

(2018年4月30日朝刊掲載)

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