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社説・コラム

社説 艦載機移転1ヵ月 生活への影響 広げるな

 米軍岩国基地(岩国市)への厚木基地(神奈川県)からの空母艦載機移転が完了し、きのうで1カ月が過ぎた。従来いた海兵隊を含め、岩国基地の所属機は約120機と倍増し、極東最大級の航空基地になった。

 その分、事故やトラブルも増えかねない―。かねて懸念されていた通り、騒音など暮らしへの影響がじわり表れている。

 市や山口県は、住民の生命や財産、平穏な生活を守る義務を負う。そのため言うべきことは政府や米軍にきちんと伝える必要がある。その責任をしっかり再認識しなければならない。

 基地を発着する所属機が増え、ごう音がひどくなったのではないか。多くの人が感じ、データでも明らかになっている。市が基地の南側に設置している測定器が記録した騒音は、4月は26日現在で1189回に上った。月別で今まで最も多かった1月の883回を上回った。

 回数だけではない。騒音の最大値は103・3デシベルに達した。電車通過時のガード下に相当する100デシベルを超えた。それに伴い「目が覚めた」などの苦情が増加。4月の苦情は26日までで約630件と最多を更新した。

 さらに騒音が増すかもしれない。5月中下旬に4日間程度行う予定の、艦載機のパイロットが空母への着艦資格を得る訓練(CQ)の影響である。日中と夜間、空母の甲板に設置されたワイヤに機体のフックを引っ掛けて着艦する試験で、九州沖の太平洋で実施する。

 艦載機移転前の厚木基地では滑走路の運用時間外の午後11時~翌午前2時ごろに離陸して訓練場所に向かい、2~3時間後に基地へ戻るケースがあった。1時間当たり30機以上が離陸することもあり、真夜中もさみだれ式に飛ぶという。そうした事態は何とか避けねばならない。

 CQを上回る騒音が懸念されるのは陸上空母離着陸訓練(FCLP)である。滑走路を甲板に見立てて着陸直後に再び離陸するタッチ・アンド・ゴーを繰り返す。硫黄島(東京)で実施する予定だが、天候不良などで硫黄島でできない場合、岩国基地で行われる可能性もある。周辺にも影響があるだけに自治体は連携し、騒音が一定限度を超す訓練の中止を米軍に求めることが不可欠である。

 所属機の増加はトラブル増加にもつながりかねない。先ごろ最新鋭ステルス戦闘機F35Bが福岡県の自衛隊基地に緊急着陸した。「整備上の問題が生じたため」というが、原因や対策ははっきり示されていない。防衛面での配慮も必要には違いないが、情報公開に消極的なままでは、住民の不安は高まる。米軍は分かっているのだろうか。

 艦載機移転に伴い、今年後半までに軍人や家族ら約3800人が移って来る。隊員らの教育は徹底されているか、疑問が残る。4月21日には、岩国基地で拘束されていた米軍人が基地の外に逃げた。2時間半後に岩国署が捕まえたとはいえ、再発防止に綱紀保持は欠かせまい。

 なし崩し的に訓練が拡充されないか。滑走路の運用時間は守られるか…。極東最大級となった岩国基地の変容に周辺地域を含む住民は不安を抱えている。各自治体や山口県は、そうした声に耳を傾け、暮らしへの影響が広がらないよう、一層力を尽くさなければならない。

(2018年5月1日朝刊掲載)

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