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社説・コラム

天風録 『南北の「時差解消」』

 古代中国で王は時をも支配する存在とされた。「正朔を奉ず」とは、王が下げ渡した暦(正朔(せいさく))を使うことで、統治に服するという意味だ。時の支配は権力の証しだった▲「わずか数メートル歩いただけで、なぜこうも時間が違うのか」。最高指導者のひと言でいとも簡単に変わった。北朝鮮がきょう標準時間を30分早めて、韓国との時差解消に踏み切るという。南北会談の控室にあった二つの時計に「胸が痛かった」そうだ▲それから10日足らず。融和ムードを強調したかったのだろうが、際立つ独裁色を印象付けたのではないか。もともと南北に時差はなく日本と同じだったが、3年前に「平壌時間」を導入したのは彼自身だ。額面通りに受け取れまい▲こちらは針が30秒進められた。地球最後の日までの時間を象徴的に示す「終末時計」だ。ことし1月、人類滅亡を示す午前0時まで残り「2分」になった。時計を管理する米科学誌は北朝鮮の核・ミサイル開発が核戦争の危険性を高めたと指摘した▲冷戦さなかの1953年と並び最も短い。米朝首脳会談では完全な非核化に向けた道筋が求められる。時間がない。終末時計の針をもてあそぶような振る舞いはごめん被る。

(2018年5月5日朝刊掲載)

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