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社説・コラム

社説 中国軍の台湾周辺演習 武力で威嚇 行き過ぎだ

 中国軍が台湾周辺での相次ぐ軍事演習で武力を誇示し、台湾の「独立派」に圧力をかけている。台湾では冷静に受け止めているだけに、威嚇とも取れる動きは自制してもらいたい。

 両岸(中台)関係が危機をはらめば、東アジアの安定を脅かしかねない。習近平政権は蔡英文政権に対し、圧力ではなく対話の道を探るべきである。

 4月中旬以降の中国の一連の軍事演習は、台湾を包囲する格好だった。まず台湾南方の南シナ海で過去最大規模の観艦式を挙行し、習氏が出席した。

 続いて台湾の対岸の福建省で海上実弾射撃演習をしたほか、爆撃機2機が沖縄本島と宮古島の間を飛行して西太平洋に抜け、台湾南方のバシー海峡を通って中国に戻った。さらに空母「遼寧」の艦隊は同じバシー海峡東方の西太平洋で総合的な攻撃・防御訓練を実施した。

 中国は「一つの中国」の原則で一致したとされる1992年合意を認めるよう台湾に求めているが、蔡政権は応じていない。そこで台湾を中国の一部として防衛するかのように振る舞う意図が、軍事演習にはあるのではないか。現に中国空軍は「祖国防衛は人民空軍の神聖な使命だ」と強調している。

 中国が特に看過できないとみるのは、蔡政権の頼清徳行政院長(首相)が「台湾は既に主権独立国家だ」などと再三発言していることだ。李登輝元総統(大統領)らが支持する独立派新組織「喜楽島連盟」が「中華民国から台湾への国名変更」を問う住民投票へ動きだしたことも中国を刺激していよう。

 確かに台湾は中国が加盟した71年に国連から脱退し、国際社会では台湾と外交関係を結ぶ国は少数派である。だが、それを除けば国家の要件は満たしていて、しかも今は選挙によって総統や立法委員(国会議員)を選ぶ民主化を実現している。

 一方、共産党独裁に加えて習氏への個人崇拝が進む中国は「強国路線」を強めている。「天然独(生まれながらの独立派)」と呼ばれる世代も台頭してきた台湾との間で「一つの中国」を構成できると考えるのは、もはや無理があろう。

 中国としては、軍事演習は米台接近に対するけん制でもある。トランプ米政権は米台の閣僚・高官の相互訪問を促して関係強化を図る「台湾旅行法」を成立させた。背景には米中間で激化する貿易摩擦があり、台湾を中国との「交渉カード」として使う狙いもあるようだ。

 ただし米国がいたずらに中国を刺激するのは好ましくない。新たな火種となることのないよう、慎重な対応を求める。

 また、中国は台湾と外交関係を持つ国々を経済援助で「各個撃破」し、台湾との断交、中国との国交樹立へと働き掛けている。中台の摩擦を強める流れであり、憂慮すべきである。

 台湾は21日からスイスで開かれる世界保健機関(WHO)総会へのオブザーバー参加を求めている。はしかの患者数が台湾で増えていることと併せて、公衆衛生と政治は切り離すべきだと訴えているが、やはり中国が立ちはだかっているようだ。

 外交関係はなくても経済や観光で関係が深い日本は、WHO参加について積極的に後押ししてはどうか。日中関係とは切り離して支援すべきだろう。

(2018年5月5日朝刊掲載)

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