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現場から 2012衆院選 固定価格買い取り制度 原発の地元 風力に勢い

 福島第1原発事故を受け、島根県内で風力など自然エネルギーの導入が進んでいる。政府は7月、普及を促す固定価格買い取り制度を開始。課題だった採算面は改善されたものの、新制度の先行きが不安視されており、将来を見据えたエネルギー政策を求める声が上がっている。(川上裕)

 「冬は稼ぎ時」。直径90メートルの羽根が回る風車を見上げ、新出雲ウインドファーム(出雲市)の長谷川幸司所長(42)は期待を込める。島根半島の海岸に連なる26基は国内最大級の出力7万8千キロワットだ。

 2009年4月に運転開始。事業費約160億円のうち国から3分の1の補助を受けた。ことし10月に買い取り制度を適用。同社は売電価格を公表していないが、利益の出る水準に達したという。

 強風などで冬場の故障が相次ぎ、約半年の全基停止がこれまで2回あった。そのたびに改修し、昨冬初めて全基が運転を続けた。長谷川所長は「出雲の経験を生かし、風力発電が広がってほしい」と願う。

 県内の風力発電の出力は計12万8千キロワットで、中国地方5県トップ。新制度を追い風に、大手商社などの出資で29基(出力4万8千キロワット)の建設計画が浜田市で進み、大田市や吉賀町で建設計画もある。

 ただ、発電側に有利な買い取り費用は、電気料金に転嫁されて国民に跳ね返る。「負担が増せば、必ず制度の見直し論議が起こる」。県商工会議所連合会の古瀬誠会頭(66)は指摘する。

 中国電力島根原発(松江市鹿島町)のある衆院選島根1区。立候補者からは「あらゆる政策投入で原発依存をやめる」「新エネルギーで地域に雇用を」と、自然エネルギー推進の声も聞こえる。

 古瀬会頭は「原発をゼロにした場合の電力確保策があいまい。企業は今後5年の電力の安定性と価格を知りたい。分からなければ日本経済の成長はない」と候補に具体的な見通しを求める。

 一方、反原発を掲げる市民団体「平和フォーラムしまね」(松江市)の杉谷肇代表(71)は「悲惨な事故を経験し、原発推進には戻れない。国と電力会社には自然エネルギーの普及を支える責任がある」と話している。

固定価格買い取り制度
 太陽光や風力などで発電した電力の全量を、発電側に有利な価格で電力会社に買い取るよう義務付けた。電力会社は買い取りコストを電気料金に上乗せする。新設の風力発電(20キロワット以上)の場合、買い取り価格は従来の約2倍の23・10円、期間は20年と決まった。

(2012年12月7日朝刊掲載)

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