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連載・特集

[つなぐ] ユニタール、ANT―Hiroshimaインターン アナリス・ガイズバートさん

被爆樹木 世界に伝える

 米国西海岸のシアトルで生まれ育ち、大リーグ・マリナーズのイチローのファン。オハイオ州のオーバリン大で日本語と英文学を学び、2014年に半年間、同志社大(京都市)へ留学した。日本滞在中、初めて被爆地を訪れたことがその後の道を決めた。

 原爆資料館を見学して「私には教科書の『知識』しかなかったと痛感した。原爆を使った国の人間として、もっと学び、心から理解する責任がある」。オーバリン大の関連NPOが主催する広島への派遣事業に応募し、卒業後の16年9月から国連訓練調査研究所(ユニタール)広島事務所のインターンとして働く。

 主にアフガニスタンからの研修生のサポート業務に携わる。そして週1、2回はNPO法人ANT―Hiroshima(中区)にもインターンとして通い、国際協力や被爆者の体験証言を広める仕事の手伝いをしている。被爆樹木から採取した種や育てた苗を国内外に広めるユニタールとANTの共同プロジェクト「グリーン・レガシー・ヒロシマ・イニシアティブ(GLH)」の業務も担う。

 弁護士の父、平和と非暴力を重視するキリスト教メノナイト派教徒の母の元に生まれた。少女時代、泥沼化したイラク、アフガンという「二つの戦争」への介入が米国の社会問題だった。今、紛争で疲弊した国の復興支援と被爆地からの平和活動の両方を「広島からの社会貢献」として関わる意義を感じている。

 とりわけ「人間よりも長く生きて、将来もあの日の悲惨を伝える生命」である被爆樹木との出会いは「学び」を超え、伝え手という当事者になるきっかけの一つになった。

 GLHの活動として、世界各地から訪れる若者らと歩いて被爆樹木を巡り、当時の被害や現在の保存状態を説明している。「その場では自分が広島の代表だと思われる。私でいいのか、と迷ったこともあるが、一歩前に出よう」と自らの背中を押した。

 読み書きも流ちょうな日本語力を生かして昨年から始めたのが、被爆樹木との出会いを記した映画監督石田優子さんの児童書「広島の木に会いにいく」(偕成社刊)の英訳だ。ANTのブログで順次紹介しながら、このほど240ページ全編の翻訳を終えた。石田さんも喜んでくれた。

 米国での出版を模索している。「原爆被害から目を背けがちな人でも『被爆樹木』なら入り口になるはず。この本を読んで被爆樹木に会いに来たいと思ってくれる人がいればうれしい―という石田さんのあとがきの言葉を、米国で伝えたい」と願う。

 米国でも「核兵器は使われてはならない」と思う人は増えてきたと感じる。「でも、あくまで不使用であって廃絶ではない。だからこそ被爆地に来てもらい、広島のみんなの思いを知ってほしい」

 インターン期間は8月末まで。その後も被爆地に残りたいという。若者たちの輪の中で世界と広島をつなぎ、核兵器廃絶を求める活動を続けていくつもりだ。(金崎由美)

(2018年5月14日朝刊掲載)

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