×

連載・特集

東京のヒロシマ <2> 原爆小文庫(西東京市)

平和への知識 年々蓄積

 東京・池袋から電車で約20分。人口約20万人の西東京市の市ひばりが丘図書館に、「原爆小文庫」と掲示された棚がある。小説、写真集、学術書、漫画など原爆・平和をテーマにした約940冊が並ぶ。さらに関連の約3千冊が書庫に収められている。

 市が原爆小文庫を開設したのは1976年。住所さえ確認できれば、市内在住かどうかを問わず、誰にでも貸し出す。「開館に尽くした先人の思いをくみ、より多くの人に読んでほしいんです」。西村薫館長(57)は言う。

 「先人」とは、原爆文献の大切さを訴え、関連の著書も残した文芸評論家の長岡弘芳さんのことだ。長岡さんは、平成の大合併で西東京市になる前の保谷市に転居した75年、地元に図書館ができると知り、原爆文庫を提案した。新聞の投書などで関連本の提供を呼び掛け、収集した約250冊を図書館に寄託。76年、開館から4カ月後に原爆小文庫の設置を実現させた。

 平和学習は生涯学習でなければならない。だからこそ、まちの図書館に原爆文庫を―。89年に57歳で亡くなった長岡さんは生前、そんな思いを書き残している。遺志は歴代職員に受け継がれた。文庫は94年、開館したひばりが丘図書館に移転。その後も蔵書数は着実に増えている。

 書庫には、100冊を超えるスクラップブックもある。文庫の開設当初から職員が続ける、原爆関連の新聞記事の切り抜きを集めている。西村館長は「原爆ドームをすぐに見に行けない東京だからこそ、公立図書館ならではの情報発信が求められる」と使命感を口にする。毎年、文庫の利用者が増える夏に原爆関連の展示もしている。(田中美千子)

(2018年5月10日セレクト掲載)

年別アーカイブ