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連載・特集

イワクニ 地域と米軍基地 ドイツ・イタリアから <1> 隣人

「公平な関係」築く対話

活動を報告 要請反映も

 米軍岩国基地(岩国市)は、空母艦載機の移転で極東最大級の航空基地になった。地域と米軍基地の関係はどうあるべきか。ヒントを探るため、日本と同じく第2次世界大戦の敗戦国で、駐留する米軍の基地が点在するドイツ、イタリアを巡った。ドイツの現状から報告する。(明知隼二)

 重苦しいジェットエンジン音が響き、空を見上げた。町並みの向こうに米軍の輸送機がぐんぐん高度を上げていく。ドイツの首都ベルリンの南西約530キロ。人口約8千人のラムシュタイン・ミーゼンバハ市にラムシュタイン米空軍基地はある。かつて核兵器が保管されていたドイツ最大規模の基地は、米軍にとって欧州の要の一つだ。

経済効果2600億円

 「私たちは、自ら米軍基地と暮らすことを選んだわけではない。それでも今、パートナーと呼べる関係かもしれない」。市庁舎で会ったラルフ・ヘヒラー市長は言い切った。

 基地は第2次世界大戦後、占領軍の米国とフランスによって旧ソ連を封じ込める要衝として建設された。岩国基地の1・8倍の広さで、4300ヘクタールの市の面積の3分の1を占める。今、米軍が欧州空軍司令部を置く基地周辺には、弾薬庫や兵舎など十数カ所の関連施設が集積する。隣接市などを含め、米本土外で最も多い約5万2千人の米軍関係者が暮らしている。

 一帯にオペルなど大手自動車メーカーの製造拠点もあるが、地域最大の「雇用主」は米軍だ。関連施設全体でドイツ人約5800人が働き、2014年度の経済効果は約23億5千万ドル(約2600億円)。山口県が試算した15年度の岩国基地の経済効果約532億円の5倍近くになる。

 日本と同様に、米軍基地と地域経済が結び付いていた。しかし、基地に対する地元の権限は大きく異なっていた。

 ドイツでは、駐留する外国軍の管理、運用などについて定めた「ボン補足協定」で、地方自治体による基地への立ち入りが認められている。市長が免許証ほどの大きさの立ち入り許可証を見せてくれた。名前と顔写真の横に「0~24時・月曜~日曜」とあった。事故の有無などに関係なく、いつでも立ち入り可能との意味だ。日本では、施設内で深刻な環境問題が発生した際に限られている。

オープンな場で

 基地と地元との関係を支える仕組みもあった。基地が年3回開く「騒音軽減委員会」。メンバーには米軍、ドイツ軍それぞれの代表や周辺自治体の首長だけでなく、基地に反対する市民団体の代表も加わる。基地側は離着陸や夜間飛行の回数などを報告し、地元から苦情や要請を聞き取る。

 基地と地元の協議機関の設置を定めた条文はない。それでも米側は、1993年の大幅改定を機にオープンな委員会を設けた。市長は「実際、人が暮らす地区の真上を通る米軍機の飛行ルートを見直させた」と胸を張った。

 昨年12月、沖縄県で起きた事故を思い起こした。米軍普天間飛行場所属の大型輸送ヘリコプターの窓が、隣接する小学校運動場に落下した。事故当日、現地を取材した。人口密集地にある普天間飛行場と、ラムシュタイン空軍基地を単純に比較できない。それでも、「子どもが空の下で遊べないのか」と憤った住民の表情が頭に浮かんだ。

 日本の状況を説明すると、市長は不思議そうに首をかしげた。「米軍も国外に基地を置くという利益を得ている。だからこそ地元と公平な関係を築こうとしている」。米軍は「隣人」に対し、日本とは異なる表情を見せていた。

(2018年5月20日朝刊掲載)

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