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連載・特集

イワクニ 地域と米軍基地 ドイツ・イタリアから <6> 負の側面

「派兵の歴史」忘却 懸念

アフガン戦争 重要な役割

 ドイツ有数の古都、ハイデルベルク市を訪ねた。大規模な空襲を免れ、古い町並みが残る中心部は観光客が行き交っていた。市郊外にあった米軍基地は2014年、撤退が完了した。「新たなまちづくりに向け、市民と議論を深めているさなかだ」。米側から返還された跡地の利用計画を統括する市のウォルフガング・ポリフカ担当局長は力を込めた。

 米欧州陸軍司令部も置かれていた基地の跡地は5カ所で計約180ヘクタール。企業や教育機関の誘致、不足している若い世代向けの住宅整備…。市が描く開発の青写真には未来志向のプランが並ぶ。工事が本格化している跡地の一つでは、既に兵舎を転用した住宅に約100世帯が入っていた。

撤退前8000人駐留

 市と米軍の関係は、終戦直後の占領期から約70年近くに及んだ。撤退前、人口約15万人の市に約8千人が駐留していた。米軍機による騒音問題はなかったという。市内には、米ジャズ歌手ビリー・ホリデイの名前を付けた通りなど駐留の名残もあり、良好だった関係をうかがわせた。

 ポリフカ担当局長は「跡地開発で米国とハイデルベルクの友好の記録を残したい」と語った。

 「市は基地の暗い、負の側面にも目を向ける必要がある」と指摘する人もいた。ベルリン在住のアーティスト、フェリックス・マイヤークリスチャンさん(38)。基地の撤退が完了した14年と翌15年、跡地で、駐留の記憶をテーマにした映像やダンスパフォーマンスなどのインスタレーション(空間芸術)を手掛けた。

 作品では、01年の米中枢同時テロ後のアフガニスタン戦争を取り上げた。米英主体の多国籍軍が攻撃し、欧州の駐留米軍も現地に送り込まれた。自らアフガンに出向き、住民をインタビューして回った。「外から来た軍隊が市民を殺しているじゃないか」。現地では過激派組織との戦闘が今も続き、市民が巻き込まれる事態が相次ぐ。駐留軍に厳しいまなざしを向ける住民の声を作品に盛り込んだ。

「暴力性に加担」

 米欧州陸軍は湾岸戦争やイラク戦争にも兵力を投入し、重要な役割を担った。ハイデルベルク基地の司令部が、その中枢だった。マイヤークリスチャンさんは言う。「市は基地から多大な恩恵を受けてきた。だからこそ、『世界のスーパーパワー』である米軍の暴力性に地域が加担していたことも忘れてはならない」

 昨年11月。日本海に、米海軍横須賀基地(神奈川県横須賀市)を母港にする原子力空母ロナルド・レーガンが展開した。別の空母2隻との異例の3隻態勢で、挑発行動を重ねていた北朝鮮をけん制した。

 その艦載機約60機は3月末、厚木基地(神奈川県)から岩国基地(岩国市)への移転を完了した。アジア太平洋地域の米軍戦略と沖縄の基地負担軽減が一体となった在日米軍再編。その中で岩国基地は極東最大級の基地へと変貌した。

 岩国基地もかつて朝鮮戦争、ベトナム戦争の出撃拠点となった。今後、どんな「派兵の歴史」を刻むことになるのか。ハイデルベルク市の基地跡地には、その歴史を消し去るように、つち音が響いていた。(明知隼二)

(2018年5月25日朝刊掲載)

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