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社説・コラム

社説 新潟県知事選と原発 真正面から再稼働問え

 女性問題を巡る前知事の辞職に伴う新潟県知事選がきのう、告示された。与野党がそれぞれ支援、推薦する候補による事実上の一騎打ちの構図となった。来月10日の投開票に向け、激しい選挙戦が予想される。

 最大の焦点は、県内に立地する東京電力柏崎刈羽原発の再稼働問題だ。東電の責任や、原発回帰をうかがわせる国のエネルギー政策が問われる。中国電力島根原発3号機の新規稼働の前提手続きが進む中、中国地方の私たちも関心を向けたい。

 野党側は選挙戦で森友、加計問題なども取り上げ、安倍晋三首相の政治姿勢を問う構えでいる。秋の自民党総裁選や来年の統一地方選、参院選を占う上でも、大きな意味を持とう。

 無所属の新人3氏が争う選挙で軸となるのは、自民党が支援する前海上保安庁次長の花角英世氏と、立憲民主、国民民主、共産など野党5党が推薦する元新潟県議の池田千賀子氏である。国政で連立を組む公明党は花角氏支援に回るとみられる。

 柏崎刈羽原発を巡っては考えねばならない点が多い。まず福島で未曽有の事故を起こした東電に、再び原発を動かす資格があるのか。東電は経営立て直しには不可欠と訴えるが、福島第1と同じ沸騰水型原子炉は各地で停止したままだ。再稼働して大丈夫なのか、多くの国民は不安や疑問を拭えないでいよう。

 これらを踏まえ再稼働に慎重な姿勢を示していたのが、任期途中で先月辞職した米山隆一前知事である。福島の事故原因▽健康や生活への影響▽万一の安全な避難方法―という三つの検証を最優先とし、再稼働にストップをかけていた。

 大きな争点でありながら、今回の知事選を複雑にしているのも原発である。与野党の候補がともに「県民党」を名乗り、米山路線の継続を訴えたからだ。再稼働慎重派でくくられがちだが、第一声からはスタンスの違いも浮かび上がった。

 「原発のない新潟をどうつくっていくか」と訴えたのは池田氏だ。県民との「丁寧な議論」を約束し、原発に代わる再生可能エネルギーの普及を訴えた。

 一方の花角氏はどうか。「私自身、原発には不安がある」として安全性検証の継続を主張したが、再稼働に含みを持たせた。「必要があれば皆さんの信を問うこともある」とし、出直し知事選を検討するという。この発言には首をかしげざるを得ない。次の審判を軽々に持ち出すのは選挙制度の軽視とも受け取られかねない。

 こうした花角氏の態度は、与党の選挙戦略も影響しているのではないか。世論を二分する争点で相手の主張に訴えをくっつけるのは「抱き付き戦略」と呼ばれる。これは米軍基地問題より地域振興を前面に打ち出し、与党系候補が勝った先の沖縄県名護市長選に通じる戦い方だ。

 原発再稼働は真正面から是非を問うべきだ。これは池田氏にも注文しておきたい。推薦を受けた野党5党はかねて、原発ゼロの目標時期などを巡って温度差があるからだ。実際、2年前の鹿児島県知事選で脱原発の統一候補として臨んだはずの野党候補が当選後腰砕けになったのも記憶に新しい。

 新潟県知事選ではぶれない公約と、有権者に分かりやすい説明を求めたい。

(2018年5月25日朝刊掲載)

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