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米朝会談中止 被爆者や市民「残念」 核実験場廃棄は評価

 トランプ米大統領が6月12日に予定されていた米朝首脳会談を取りやめると発表したのを受け、広島の被爆者団体や市民は「残念」としながらも、非核化に向けた今後の対話継続に望みをつないだ。北朝鮮が過去6回の核実験を行った核実験場を廃棄したことには評価の声も上がった。

 広島県朝鮮人被爆者協議会の金鎮湖(キム・ジノ)理事長(72)は「あまりにも残念だ。完全に対話が切れてしまうと、再び朝鮮半島で戦争の危険があるのではないか」と先行きを懸念。南北首脳会談での成果を挙げ、「可能性のある限り非核化を目指す対話を続けてほしい」と期待を込める。

 在日本大韓民国民団(民団)広島県地方本部韓国原爆被害者対策特別委員会の朴南珠(パク・ナムジュ)委員長(85)は「中止も想定していたが現実になるとは。北朝鮮はこのまま核兵器を持っていても自滅の道しかない。米国も巨大な軍事力を持って圧力をかけるだけではいけない」と、緊張緩和を願った。

 一方で、北朝鮮は核実験場を廃棄する措置を取った。広島県被団協(坪井直理事長)の箕牧(みまき)智之副理事長(76)は「北朝鮮は拘束していた米国人3人を解放し、核実験場の爆破もした。なぜ首脳会談を中止するのか理解できない」とトランプ大統領の対応を疑問視。もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長(73)も廃棄を評価し、「米国との対話のためにやったのだろう。米朝会談の中止で、北朝鮮が核兵器をなくす方向から開発する方向へ転換してほしくない」とし、核兵器廃絶の署名活動にさらに力を入れる意向を示した。

 市民の受け止めも、不安の声と将来的な会談への期待が交錯する。広島県北広島町の会社員高橋とおるさん(38)は「拉致家族の気持ちを思うと残念」。米軍岩国基地(岩国市)に近い大竹市のパート中本康恵さん(50)は影響を不安視し、「軍事的な動きが活発になるのでは」と漏らす。

 広島市西区の在日朝鮮人2世の李憲伯(リ・ケンハク)さん(83)は「南北首脳会談で光が見えた朝鮮半島統一の夢まで、ほごになるのか」と嘆く。世界最大の核保有国の米国が核廃棄を迫っても説得力がないとしつつ、「両国は対話の余地を残している。希望はまだあるはず」と声を強める。

 広島市立大広島平和研究所の水本和実副所長(核軍縮)は「対話の前段階から米朝双方がそれぞれ求める結論を決め付けるあまり、非難、挑発の応酬に陥ってしまった」と分析。「対話が止まると、北朝鮮の核・ミサイル開発と米国の軍事的圧力がまた進む可能性がある。日本政府は米国の軍事的な挑発、圧力を助長するのではなく、韓国などと対話を促す努力をするべきだ」と話している。

(2018年5月26日朝刊掲載)

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