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連載・特集

イワクニ 地域と米軍基地 ドイツ・イタリアから <8> 民意

拡張に反発 届かぬ声

自国の安保 住民を翻弄

 世界文化遺産に登録された16世紀の町並みがあるイタリア北部ビチェンツァ市。世界規模の米軍再編の一環で2006年、市中心部の米陸軍基地を拡張する計画が浮上した。「寝耳に水の話だった」。基地近くに住み、反対運動を引っ張ったグイード・ラナロさん(39)は当時を振り返った。

敷地面積2倍に

 拡張計画は、既存の基地近くにあるダル・モリン空港を基地に改装して加え、ドイツに分散していた部隊を集約する内容。事実上、新たな基地の建設だった。敷地面積は2倍の計約120ヘクタール、駐留数は1・8倍の約5千人で、イタリア最大の陸軍基地になる。

 市民から強い反対の声が上がった。安全や環境問題を懸念する声だった。当時の市執行部が地元に意見を聞かないまま計画に同意したことも、反発に拍車を掛けた。反対住民は建設予定地の近くに、拠点とするテント村を設置。撤去を防ぐため土地を1人1平方メートルずつ購入し、最終的に約300平方メートルに広がった。

 翌07年2月のデモの参加者は、市の人口とほぼ同じ約10万人に膨れ上がった。「ノー、ダル・モリン」。建設予定地の空港名とともに反対を叫ぶ人で、通りは埋まった。多くの店がシャッターを閉め、学校は休校になった。

 08年4月の市長選で、建設反対を掲げた現市長が当選。市は建設の賛否を問う住民投票を計画したが、政府から提訴されて断念した。非公式で実施した結果、有権者約8万人のうち2万5千人が投じ、反対は約96%を占めた。

 反対運動はしかし、これが限界だった。新基地の建設は進み、13年に施設の大部分が完成した。今、内部工事が続いているという。「政府は米国との摩擦を避けたいのだろうが、政府が判断する前に地元の声を吸い上げる仕組みが必要だ」と、ヤコポ・ブルガリーニデルチ副市長は指摘した。

 イタリアは日本に比べ、米軍基地に強い権限を持つ。それでも日本と同じように、基地のある地域は自国の安全保障政策に翻弄(ほんろう)されていた。  ビチェンツァ市を揺さぶった世界規模の米軍再編に、日本も組み込まれていた。一連の在日米軍再編で、米軍岩国基地(岩国市)には厚木基地(神奈川県)の空母艦載機約60機が移転した。

 岩国市も揺れた。移転を巡り、合併前の旧市は06年3月、住民投票を実施。投票した約5万人のうち約87%が反対した。

アメとムチ駆使

 しかし、日米両政府はその2カ月後、再編計画に最終合意。日本政府は市新庁舎の建設補助金35億円を凍結するなど、なりふり構わず「アメとムチ」を駆使した。08年2月、移転反対の前市長の辞職に伴う出直し市長選が転機になる。「条件付き容認」を掲げた福田良彦市長が当選した。

 ビチェンツァ市の基地の周りを、ラナロさんが案内してくれた。テント村があった場所は空き地になっていた。「既に基地がある地域に、新たな基地が押し付けられる。住民は何も知らされないまま、我慢するしかない」。ラナロさんは真新しい基地を見つめた。(明知隼二)

在日米軍再編
 冷戦終結や2001年の米中枢同時テロを受けた世界規模の米軍合理化の一環。米軍の抑止力の維持とともに、沖縄などの基地負担軽減を図るのを目的に日米両政府が06年、合意した。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設をはじめ、在沖縄米海兵隊の一部のグアム移転、厚木基地(神奈川県)から岩国基地(岩国市)への空母艦載機移転などが盛り込まれている。

(2018年5月27日朝刊掲載)

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