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社説・コラム

社説 南北首脳 再会談 非核化 対話で後押しを

 雲行きが一時怪しくなっていた史上初となる米朝首脳会談の実現に、再び弾みをつけることになるのだろうか。

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が電撃的に再会談を行った。米朝首脳会談への「確固たる意志」を両氏が表明したのは、関係改善と安定への意欲の表れだろう。

 トランプ米大統領も素早く反応し、自ら中止を発表したシンガポールでの6月12日の首脳会談の開催を改めて目指す考えを記者団に示した。朝鮮半島の非核化へ確実な一歩を刻めるよう準備を進めてほしい。

 4月の前回から1カ月での南北再会談のインパクトは大きい。融和ムード演出という意図はあろうが、事態打開を狙って金氏が前日に提案した。軍事境界線をまたぐ南北の首脳が必要であれば即座に対面し、互いの考えを伝え、確認し合う―。政治的、軍事的な緊張を高めないため、今後も欠かせない。

 金氏は改めて「朝鮮半島の完全な非核化」の意思を表明したという。そのプロセスには米朝間の溝が依然ある。北朝鮮は非核化の行動ごとに段階的な制裁緩和を求めている。米国が「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」を目指すなら、誠実な対話を積み重ねる必要があろう。

 両トップの会談が中止になりかけたのは、両国の挑発やけん制が過ぎたことも一因である。北朝鮮側は、従来のように敵意むき出しの談話を発表していた。加えて首脳会談に先立つ実務者協議も通告なく欠席した。新たな歴史の扉を開きたいなら、今までのような外交戦術は捨て去ることが求められる。

 米国も高圧的な態度は慎まねばなるまい。政権内で言及された「リビア方式」の核放棄は、手法自体よりカダフィ政権のような体制崩壊を想起させる。体制保証を最重視する北朝鮮が敏感に反応するのは当然だろう。

 トランプ氏は会談中止を通告した書簡で、自国の核戦力を誇示して「使われないように神に祈る」とつづった。核兵器による威嚇は絶対に許されない。相手の核放棄を遠ざけるだけだと、なぜ分からないのか。

 米朝首脳会談を巡っては、事態が二転三転し、まるでショーを見ているような感覚になる。派手な動きや駆け引きがクローズアップされがちだが、朝鮮半島を非核化し、北朝鮮を国際社会に引き戻すという目標を見失ってはいけない。史上初の首脳会談が実効性あるものになるよう注視することが必要である。

 金氏は、韓国とだけでなく、中国の習近平国家主席との首脳会談も2回行い、念入りに足場を固めている。核放棄と引き換えに米国から体制保証を確実に得たいと真剣に考えているようだ。トランプ氏も秋の中間選挙を見据え、外交成果を得たいと首脳会談には意欲的である。

 米朝首脳会談の成功には、国際社会の後押しが欠かせないだろう。ロシアを訪れていた安倍晋三首相はプーチン大統領と会談し、北朝鮮情勢も話し合った。会見で安倍氏は「北朝鮮の非核化を進めるのは日ロ共通の立場だ」と強調した。

 拉致問題を抱え、何度も約束を破られた日本政府は北朝鮮への不信感や警戒感が強い。だが慣例にとらわれず首脳外交をいとわない金氏の姿勢を踏まえたアプローチも検討すべきだ。

(2018年5月28日朝刊掲載)

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