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社説・コラム

天風録 『印パ核実験20年』

 靴底を鳴らして互いを威嚇する行進に、見学席の市民が歓声を上げる。まるでスポーツ観戦のような盛り上がりの異様さにたじろいだのを思い出す。十数年前、インド・パキスタン国境を訪れた時のことだ▲毎夕、双方の国境警備兵が国旗を降ろす儀式が見られる。元々同じ国だっただけに、兵士は見た目も装いもよく似ている。だが一瞬、形だけの握手はしても言葉は交わさない。分離独立以来3度も戦火を交え、今もなお領土を巡って角突き合わせる▲そんな両国が相次いで核実験を強行し、丸20年になった。ソ連崩壊で遠のいたはずの核戦争の危機は、再び世界を不安に陥れた。だが「抑止力だ」と双方譲らず、保有する核弾頭はいつの間にか倍増している▲先進諸国の責任は重い。印パに制裁を科していた米国は9・11テロを受け、自国を狙ったテロの掃討作戦を最優先。他の大国も目をつぶり、被爆国はインドでの原発ビジネスに突き進む▲相互に結合した世界では戦争も自由も平和も全てつながっている―。パキスタンを含む非同盟諸国を率い、冷戦下で反核を訴えたネール元インド首相の言葉だ。自国ファーストを互いに貫けば「核なき世界」はなお遠い。

(2018年5月31日朝刊掲載)

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