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連載・特集

東京のヒロシマ <3> 原爆・戦争体験伝承者(国立市)

市が認定 記憶語り継ぐ

 東京都国立市の図書館の一室。市の認定を受けた原爆・戦争体験伝承者の天野佳世子さん(51)=東京都府中市=は穏やかに語り始めた。「今から話すのは、近所に住む平田忠道さんの体験です。73年前の広島で本当にあった出来事なんです」。来場者15人は40分間の講話に耳を傾けた。

 国立市は広島市が2012年から続ける被爆体験伝承者の養成に倣い、15年に同様の事業を始めた。独自の研修プログラムは15カ月間。地元の被爆者や東京大空襲の被害者から体験を聞き、発声法や話術も学んでもらう。これまでに1、2期生計31人が認定され、市主催の講話会や小中学校などで、引き継いだ記憶を語っている。

 1期生の天野さんは広島市西区出身。27歳から東京で暮らす。父は広島で入市被爆し、40代からがんに苦しんだ。78歳で亡くなったが、生前、体験の多くを語らなかった。

 11年の東日本大震災と福島第1原発事故を機に放射線被害への関心が高まり、国立市の事業に応募。研修を受け、被爆2世としての意識も高まった。「被爆者は、悲劇を繰り返さないために体験を共有してほしいと願っておられる。その思いを伝え、平和のために何ができるか考えてもらう責務が私にはあると、今は思う」。本業は保育士。子どもたちにも聞かせようと、言葉遣いなどを工夫する。

 研修で講師を務めた市内の被爆者2人のうち、広島で母と幼い弟を原爆に奪われた平田さんは87歳。長崎で被爆した桂茂之さんは昨夏、86歳で亡くなった。「記憶継承は被爆地に限らず、どの自治体も取り組むべき課題。被爆者が高齢化する中、急ぐ必要がある」と市の担当者。3期生の募集も検討する。(田中美千子)

(2018年5月17日セレクト掲載)

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