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連載・特集

イワクニ 地域と米軍基地 平和都市の周りで <5> ミサイル防衛

日米 進む軍事情報共有

山口県に新施設整備計画

 「いろいろ候補がある中でなぜ、むつみなのか」。防衛省が1日、山口県へ伝えた地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備計画。萩市の陸上自衛隊むつみ演習場を候補地とする同省幹部に、村岡嗣政知事は繰り返し問うた。

 北朝鮮への弾道ミサイル防衛(BMD)で、政府が国内2基の配備を閣議決定したのは昨年12月。国の防衛力整備の指針「防衛計画の大綱」(防衛大綱)に記載がない新装備を導入するための異例の措置だった。

 この日の説明でも同省は「北の脅威」を強調。全国約700カ所の自衛隊施設の中で、萩市と秋田市の陸自新屋演習場が防衛上「最適」な立地とした。

 むつみ演習場は広島市から直線距離で西方約80キロの山間部に広がる。一方、新屋演習場は市街地にあり、立地条件は大きく異なる。朝鮮半島有事の緊張感も一転、融和ムードが漂う。12日には初の米朝首脳会談も予定される。国が「差し迫った新たな段階の脅威」とした導入決定時の名目にも説得力が薄れている。

「配備ありき」

 半島情勢の変化の兆しを受けても国は「配備ありき」で突き進む。軍事評論家の前田哲男氏は「真の目的は対中国とロシア。北朝鮮は国民向けの分かりやすい理由付けだ」と断じた。

 さらに、山口はグアム、秋田はハワイにミサイルが発射された際の軌道上にあるとし、「米軍のミサイル防衛網に自衛隊が組み込まれた形だ」と評する。

 配備目的に、在日米軍と自衛隊との連携強化を推察する意見もある。岩国市の市民団体「瀬戸内海の静かな環境を守る住民ネットワーク」の久米慶典顧問は「山口は岩国基地、秋田は三沢基地(青森県)との情報共有が狙い」とみる。

 見立てはこうだ。ステルス戦闘機F35は現在、米軍が岩国に、航空自衛隊が三沢に配備している。イージス艦と情報共有が可能な最新鋭機だ。岩国には情報収集に特化したE2D早期警戒機も備える。久米氏は「山口、秋田への配備は、日本と標的情報をネットワーク化する米側の構想に沿うものだ」と強調する。

対中国を意識

 日米間での軍事情報の共有はBMDにとどまらない。国は山陽小野田市に「宇宙監視レーダー」の整備を計画。米軍と連携し「宇宙ごみ」を把握し、人工衛星の衝突回避に役立てるという。一方、中国などの「衛星破壊兵器」から衛星を防御する狙いもある。ここでも対中国を意識した米軍の戦略が透ける。

 山口県内に新設される最先端の二つの軍事施設は、いずれも2023年度の運用開始を目指す。ただ、15年改定の日米防衛協力指針(ガイドライン)には、既にBMDや宇宙空間で自衛隊と米軍が連携を図ることは明記されていた。

 前田氏は「日本の防衛政策は新ガイドラインでの米側の意に沿う形で進んでいる。イージス導入には、トランプ米大統領が米国製の武器購入を要求する影響もあるだろう」と言う。

 イージスとは、ギリシャ神話の「万能の盾」を意味する。戦後日本の防衛力は自衛隊が「盾」、米軍が「矛」の関係とみることもできる。日米同盟の「深化」に伴う役割分担の変容は、山口で鮮明になる。(和多正憲)

イージス・アショア
 海上自衛隊のイージス艦と同様のレーダーやミサイル発射装置などから構成される地上配備型の弾道ミサイル迎撃システム。陸地のため、イージス艦と比べて常時警戒が容易で、部隊の負担も軽減できる利点がある。政府が2017年12月に国内に2基の導入を閣議決定。23年度の運用開始を目指す。防衛省は18年6月、山口、秋田両県の陸上自衛隊演習場を「最適候補地」として公表した。

 「平和都市の周りで」は終わります。

(2018年6月7日朝刊掲載)

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