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社説・コラム

社説 米朝首脳会談 非核化の道筋 早く示せ

 長きにわたって敵対関係にある米朝の首脳による、史上初めての会談がようやく実現した。

 米国のトランプ大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が、シンガポールで歴史を刻む首脳会談を開いた。北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向けた努力を約束する―などとした共同声明に署名した。

 両首脳は最近まで互いに核兵器をちらつかせて「小さなロケットマン」「老いぼれ」などと、ののしり合ってきた。武力ではなく、対話による解決の道を選び、テーブルに着いたことを、まずは評価したい。

手順 具体化急げ

 ただ、最大の焦点である非核化については、共同声明に盛り込まれたものの、大枠合意したにすぎない。

 「完全な非核化」は会談前から北朝鮮側は表明してきた。たやすい作業ではないだけに、具体的な道筋について、声明に全く記されていないのは残念で、今後に不安も残る。

 声明に抽象的な文言が多いのも気になる。トランプ氏が会談後の単独会見で、その声明を過大に評価する様子には、違和感さえ覚えた。

 というのも、核・ミサイル問題を巡って、米朝はこれまで何度も交渉してきた。過去にも非核化に向けた合意が結ばれたものの、北朝鮮の裏切りなどでほごにされた経緯があるからだ。

 トランプ氏は「過去の失敗は繰り返さない」「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)こそが成果となる」などと述べ、今回の会談に臨んだ。

 にもかかわらず、声明は過去の米朝間や6カ国協議の合意などと比べてもあいまいと言わざるを得ない。非核化の具体的な手順や達成時期、CVIDといった原則が抜け落ちている。

 トランプ氏は会談を「プロセスの始まり」と位置付けてきた。ならば、そのプロセスの具体化を急ぐ必要がある。

信頼関係は醸成

 北朝鮮が核物質や関連施設を正確に申告して国外へ搬出するほか、国際機関による検証や査察も含めた道筋を、早急に作成すべきだ。声明も「できるだけ早い日程でさらなる交渉を行う」としており、来週にも米朝高官級協議を開いて詰めるという。着実に進めてほしい。

 一方、もう一つの焦点である朝鮮戦争の終戦宣言は、共同声明では触れられていない。平和協定締結に向け、トランプ氏も金氏も意欲を示していたが、非核化を優先したのだろう。

 ソ連が崩壊した後も、世紀をまたいで、冷戦構造が唯一残っていた朝鮮半島である。共同声明は、両国が平和のために「新しい米朝関係を築く」とうたう。トランプ氏は今回の歴史的会談について「一定の信頼を醸成したことが成果」と述べた。確かに会談は、首脳間での信頼を構築する第一歩にはなったと言えよう。

 ただ真の和解に向け北朝鮮が米国に求めてきたのは、「軍事的脅威の除去」のはずである。トランプ氏は会見で、「米朝の対話が継続している間は米韓合同軍事演習を中止する」と述べた。今後も北朝鮮に非核化を求めるだけでなく、自らも軍縮に努めなくてはならない。

外交力 試される

 多くの人が心配する日本人拉致問題については、トランプ氏は会見で記者に問われ、会談で提起したと明かすにとどまった。金氏がどう対応したか分からず、被害者家族には物足りなかったかもしれない。本来は日本政府が自ら打開し、北朝鮮との交渉の道を探るべき問題だ。トランプ氏の言及を受け、安倍晋三首相は「日本がしっかり向き合い、解決していきたい」と述べた。当然のことだ。

 今後は、これまで存在感の希薄さが否めなかった日本政府の外交力が改めて試されよう。

 米国による「核の傘」を信奉する日本こそ、核に頼らない安全保障に向けた努力が求められるのではないか。拉致問題の解決を目指す上でも、北朝鮮を敵視するだけではなく、朝鮮半島の冷戦構造が転換する局面に備えて、新たな外交戦略を打ち出す必要がある。

(2018年6月13日朝刊掲載)

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