×

連載・特集

イワクニ 地域と米軍基地 移転の先 <10> 訓練ルール見直しを

日米協の再開 急務

 米軍岩国基地(岩国市)は、空母艦載機の移転で約120機を抱える極東最大級の航空基地になった。地域はこれから、巨大軍事拠点にいや応なく向き合わされる。「共存」していくには何が必要なのか。地域と基地の関係のありようを提言する。(松本恭治)

 2日夜。岩国基地は午後10時を過ぎてから、ごう音に包まれた。暗闇の中、数分おきに艦載機9機が飛び立った。この日は午前0時台も、わずか8分間に5機が次々と着陸した。いずれも3日まで5日間、九州沖で行われた着艦資格取得訓練(CQ)に参加した機体とみられる。今後、艦載機の訓練期間中、深夜や未明に騒音が響くことは岩国の日常になる。

 滑走路の運用時間は午前6時半から午後11時。市や山口県、国、基地でつくる岩国日米協議会が決めた確認事項だ。2日未明の着陸は時間外運用に当たる。基地はルール通り、「時間外運用の可能性がある」と事前に市へ通報していた。

確認事項 形骸化

 しかし、ルールが形骸化して久しい。特に「正月三が日は訓練をしない」「盆期間中は飛ばないようにする」との項目は、ほぼ守られていない。市が正月や盆を前に自粛要請しても、基地は「任務上、不可欠」として訓練や飛行を繰り返してきた。

 正月や盆に米軍機が離着陸する理由は他にもあった。基地の「航空運用マニュアル」がそもそも、それらの期間中の訓練、飛行を認めているからだ。地元との確認事項とは異なる内容が記載されていた。

 マニュアル問題は2月下旬、中国新聞の取材で判明した。報道後、基地は公開していたホームページ(HP)からマニュアルを削除。「日常的なHPの更新作業の一環」と説明したが、今も再掲載していない。

 マニュアル問題を受け、市は確認事項の見直しへと踏み出した。「表現も含め、しっかりと米側や国と議論していく必要がある」。3月の市議会本会議で福田良彦市長は表明した。

 ただ、表立った動きはまだ見えない。「事務的な協議を進めているさなか。市の判断だけで変えられるものではない」と山中法光・基地政策担当部長。基地を含めた関係機関との調整の難しさをにじませた。

米側 変化の兆し

 基地側の姿勢にも変化の兆しがある。1日、基地の役割などを地元に説明する新たな広報活動を開始。初回は市議を招いた。リチャード・ファースト司令官はあいさつで「日米の強い同盟関係において岩国基地は重要だ」と強調し、質疑に応じた。管制塔や駐機場などの施設も公開した。

 近年、立ち入りを拒否していた基地監視団体リムピース共同代表の田村順玄市議の参加も認めた。田村市議は「意義のある機会だった」と評価した。

 5月の1カ月間、岩国市に寄せられた基地を巡る苦情件数は903件。月別で過去最多を記録した。3月末の艦載機移転完了後、市民は「爆音」の現実を突き付けられた。

 地域の負担をいかに軽くし、安心安全を確保するか。艦載機移転という環境変化に対応し、まずはより実効性の高い新たなルールを作るべきだ。1991年を最後に開かれていない協議会を再始動し、議論の場にする必要もある。

 市は「基地との共存」を掲げ、基地は「良き隣人」であると強調してきた。新たなルールを住民目線で作り直すことは、市と基地双方の責務である。

岩国日米協議会
 岩国市や山口県、国、米軍岩国基地が米軍機の運用ルールなどを話し合う場。1971年の設置後、飛行や着艦訓練の規制を中心に16項目を確認した。91年に規約で「月例会」としていた会合を「必要の都度」の開催に変更して以降、休眠状態となっている。

(2018年6月21日朝刊掲載)

年別アーカイブ