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[ヒロシマは問う どうみる米朝首脳会談] NPO法人「ピースデポ」特別顧問 梅林宏道氏

北東アジア非核化議論を

 米国、北朝鮮の両首脳が共同声明の署名に至ったのは、評価していい。声明は「朝鮮半島の完全な非核化」「米国による安全の保証」と曖昧な表現を選んだ。非核化が「検証可能で不可逆的」なものを指すのか否か、また北朝鮮にどんな安全が保証されるのか、いずれも明示していない。互いに今できる最低限の約束を盛り込んだ、非常に妥当な内容と言える。

 声明はまた、ポンペオ米国務長官と北朝鮮の担当高官が今後の交渉を担うと明記した。両国は深い不信の歴史があり、楽観視はできないが、北朝鮮には、経済建設に集中しなければならない国内事情がある。今回は本気で非核化を進めようとしているのではないか。

 その北朝鮮が米国に何を求めているかは、はっきりしている。互いに大使館を置くなど、正式な外交関係を結ぶ政治的保証、制裁解除をはじめとする経済的保証、さらに軍事的保証だ。

 軍事的保証に関しては、トランプ大統領は対話が続いている間は米韓軍事演習を中断する意向を示し、米韓両政府は、8月に予定していた演習の中止を発表した。次は、在韓米軍をどうするかがクローズアップされてくるはずだ。ここで強調したい。今こそ、北東アジア非核兵器地帯の創設を議題に乗せるべきだ。

 米朝の緊張緩和は、国際的な軍縮につなげないといけない。だが、在韓米軍を減らすとなると、日本では「日本が最前線となり、安全保障が損なわれる」「在日米軍を強化すべきだ」といった誤った世論が強まりかねない。それは北朝鮮を警戒させる。日本が緊張緩和の流れに水を差す存在として意識され、拉致問題にも悪い影響をもたらす。

 そうしないためにも、北東アジアの非核化を進める必要がある。日本、韓国、北朝鮮は核を持たず、この3カ国に対しては米国、ロシア、中国も核攻撃や威嚇をしないと誓約する、という提案だ。

 実現すれば、日本が核抑止に頼る必要はなくなる。韓国と共に核兵器禁止条約に参加する意思表示にもつながり、軍縮の流れが強まる。この好機を生かすため、被爆地も後押ししてほしい。「日本政府はなぜ、いつまでも核の傘に入っているのか」という根本的な問い掛けが力になる。(田中美千子)

うめばやし・ひろみち
 1937年、兵庫県生まれ。東京大大学院博士課程修了。98年、核・平和問題に関する民間の研究組織「ピースデポ」を横浜市で設立した。2012年4月~15年3月、長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)センター長。

(2018年6月21日朝刊掲載)

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