×

連載・特集

[ヒロシマは問う どうみる米朝首脳会談] 広島大平和センター准教授 友次晋介氏

非核化 具体的工程が必要

 米朝首脳会談の共同声明は、残念ながら非核化に向けた具体的な工程が書かれなかった。現段階では、慎重な評価しかできない。

 韓国と北朝鮮は1991年、「朝鮮半島の非核化に関する共同宣言」に合意した。そこでは核兵器の製造・保有・使用の禁止などのほか、非核化検証のための南北相互の核査察の実施も申し合わせていた。しかし、今回の声明は核査察の実施は記されず、非核化については当時の宣言に比べて後退したとすらいえる。

 一方、声明は北朝鮮が以前から要求してきた不可侵の保証などを受け入れたものに読める。首脳会談が後世、非核化への歴史的な会談と評価されるか、何も生まなかった「歴史的な失敗事例」となるのかは、今後の実務者の交渉での米国の「巻き返し」次第だ。

 ただ、実務者交渉もあまり楽観視はできない。北朝鮮の核開発は相当進んでいて非核化を確固とする作業は時間がかかる一方、制裁解除や米韓合同軍事訓練の中止は判断次第であまり時間を要さないからだ。米国が声明にしばられてこれらを実行しても、北朝鮮は実質の伴わないポーズで時間稼ぎをし、非核化が足踏みする展開もありうる。

 「巻き返し」に急がれるのが非核化の工程の具体化だ。まず核兵器を攻撃手段として使えなくするために核弾頭と発射装置を解体・除去し、次にウラン濃縮施設の解体などで核兵器製造能力をなくさせ、査察による検証で恒久的にする。これらが期限を定めて実施されることが求められる。

 逆に交渉が「失敗」すれば、非核化が見通せないまま、核を持てば大国と対等に話せるというあしき前例が刻まれかねない。北朝鮮はシリアの原子炉の建設に協力したといわれ、過去に核開発を目指したリビアに高濃縮ウランの原料を輸出した可能性も指摘されている。世界的な核不拡散のためにも、非核化実現は欠かせない。

 非核化の費用拠出や信頼できる検証のためには、米朝2カ国に収まらず、多国間のフレームワークが今後必要となっていくだろう。韓国政府は南北融和の政策により軸足を置いている印象なだけに、日本政府はこの非核化の枠組みづくりで主導的な役割を果たすことが求められる。(水川恭輔)

ともつぐ・しんすけ
 1971年、大阪府生まれ。名古屋大大学院博士課程修了。米ジョージワシントン大客員研究員などを経て、2014年から広島大平和科学研究センター准教授。18年4月に平和センターに名称変更された。専門は、核と原子力を巡る国際関係史。

(2018年6月22日朝刊掲載)

年別アーカイブ