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被爆ピアノ 新たな1台 広島の矢川さん 再生6台目

 被爆ピアノを修復して演奏会に貸し出している被爆2世の調律師、矢川光則さん(66)=広島市安佐南区=が6台目を再生し、23日にお披露目となる演奏会が広島市内であった。矢川さんは「私が手掛ける最後の被爆ピアノになるのでは」と感慨深そうに語った。

 矢川さんは2000年から、原爆の爆風や熱線を受けたピアノの修復に取り組み、これまでに計5台をよみがえらせてきた。1800回に上る国内外の演奏会に貸し出し、昨年12月にはノルウェーでノーベル平和賞受賞者をたたえるコンサートでも使われた。現在、矢川さんを主人公にした映画の製作準備も進む。

 6台目は爆心地から約2・3キロ離れた広島市東区牛田旭の民家にあった。表面に傷痕があり、爆風で割れたとみられるガラス片も残っていた。状態は良くなかったが、ピアノ線2本を交換した以外は元の部品を生かして2年がかりで修復した。

 持ち主は、02年に76歳で亡くなった被爆者の中川登美恵さん。女学生時代から愛用していたが、ここ30年は誰も使わず傷みが進み、長女の田中暢子さん(66)=大阪府大阪狭山市=が「平和のために役立てて」と矢川さんに修復を依頼した。

 演奏会は安佐南区の信用金庫ロビーであり、佐伯区のピアニスト吉清彩香さん(41)が「原爆を許すまじ」など11曲を奏でた。田中さんは妹の神谷滋子さん(63)=横浜市=と一緒に聞き入り、「母が弾いていると錯覚するほど懐かしい」と涙を浮かべていた。

 原爆投下からまもなく73年。矢川さんは「新たな被爆ピアノが出てくることはもうないだろう」とし、「今後は6台を大切にメンテナンスしながら、各地の演奏会に活用していきたい」と話している。(桜井邦彦)

(2018年6月24日朝刊掲載)

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