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社説・コラム

社説 沖縄慰霊の日 政府はなぜ寄り添わぬ

 壮絶な地上戦に巻き込まれ、犠牲になった島人は安らかに眠れているだろうか。沖縄はきのう慰霊の日を迎えた。73年前の3カ月に及ぶ戦闘により、日米双方で死者は20万人を超え、県民の4人に1人が命を奪われた。あらためて胸に刻みたい。

 悲劇はそこで終わってはいない。国内の米軍専用施設面積の70・3%がこの地に集中するのは、日本の主権回復後も沖縄は米国の施政権下に置かれ、強制的な土地収用によって米軍基地が次々と造られたためである。その歴史も含めて、沖縄を思う日でなければならないだろう。

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設は、重大な局面を迎えている。安倍政権が昨年4月に強引に着手した護岸造成工事が進み、後戻りできなくなる土砂投入が目前に迫った。反発する沖縄県は、国との訴訟で相次ぎ敗訴し、苦しい状況が続いている。

 そんな中でも、翁長雄志(おなが・たけし)知事は移設反対を貫く構えのようだ。きのうの全戦没者追悼式での平和宣言でも「決意は揺らぐことはない」と言い切った。

 翁長氏は移設反対を最大の公約に掲げて当選し、残る任期は半年を切った。埋め立て承認の撤回を「必ずやる」と明言している。膵臓(すいぞう)がんを先月公表したが、病魔と闘いながら究極のカードをいつ切るのか。注目せずにはいられない。

 移設阻止のもう一つの切り札とされるのが県民投票である。先月から市民グループが署名集めを始めた。政権の強引な姿勢に対して「投票で民意を示すしかない」との声が広がっており、早ければ12月にも実施される見通しだ。県民投票で移設反対の意思が示されれば、国も無視はできないだろう。

 移設先の地元である名護市では、2月の市長選で反対派の現職が敗れた。移設反対の声は根強いが、着々と進む護岸工事を目の当たりにし、市民には諦めムードも漂っているという。

 市長選後、政府は前市長時代に中止した米軍再編交付金について、約30億円を交付する方針を決めた。アメをちらつかせて国策を押し進めようとしていると非難されても仕方あるまい。

 翁長氏は、平和宣言で東アジアの安全保障環境の変化にも言及した。「20年以上も前に合意した辺野古移設が、普天間問題の唯一の解決策と言えるのか」との訴えには、うなずける面がある。国民全体に向けて、沖縄の基地の現状を「真摯(しんし)に考えてほしい」と語った場面には鬼気迫るものがあった。

 式に出席した安倍晋三首相は「沖縄の基地負担軽減に全力を尽くす」と述べた。ならば、沖縄に負担を押し付ける基地強化の必要性や妥当性をいま一度吟味すべきではないか。

 朝鮮半島の非核化を目指す米朝協議は今後も予断を許さないが、東アジア情勢は激変の可能性をはらんでいる。緊張緩和の流れを追い風に、在日米軍基地の在り方についてトランプ大統領に再考を促すこともできよう。それが、安倍首相が繰り返す「できることは全て行う」という文言の実行に他ならない。

 政府は、埋め立ての土砂投入を8月17日に始めると通知している。もし実行すれば、海を元に戻すのは難しくなる。沖縄の民意や国際情勢を踏まえ、自重すべきである。

(2018年6月24日朝刊掲載)

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