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連載・特集

平和への扉を開く―核兵器禁止条約と、これから 7月22日 広島で国際シンポ

 広島市立大と中国新聞社、長崎大核兵器廃絶研究センターは7月22日、広島市中区の広島国際会議場で国際シンポジウム「平和への扉を開く―核兵器禁止条約と、これから」を開く。

 中国新聞ヒロシマ平和メディアセンターの設立10周年と広島市立大広島平和研究所開設20周年を記念し、「核なき世界」への道筋を被爆地から探る。

 基調講演者には昨年のノーベル平和賞を受賞した非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))の中心メンバーで、条約コーディネーターのティム・ライト氏(オーストラリア)を招く。

 昨年7月に制定されたが保有国が加わろうとしない核兵器禁止条約をどう生かしていくか。今月12日のトランプ米大統領と北朝鮮の金(キム)正恩(ジョンウン)朝鮮労働党委員長の首脳会談を踏まえ、朝鮮半島の非核化問題の今後をどうみるか。パネルディスカッションでは、遠藤誠治成蹊大法学部教授(国際政治学・平和研究)ら一線の研究者を交え、市民社会ができることを考える。

核禁条約・北朝鮮の核 議論へ

 昨年来、世界の核兵器を巡る情勢は大きく動いてきた。被爆者が待ち望んだ禁止条約の実現。国際社会を緊迫化させた北朝鮮の核・ミサイル問題も、ようやく外交交渉のテーブルに上がった。7月22日に広島市で開かれる国際シンポジムは現状を見据え、核兵器廃絶の決意を被爆地から発信する場となる。

 核兵器廃絶への道のりはまだ遠い。昨年の禁止条約制定や非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))のノーベル平和賞受賞で一定に前進したが、核保有国は背を向けている。その中で緊迫していた北朝鮮情勢が急転した。北朝鮮による「朝鮮半島の完全非核化」の表明である。ただ、具体化は今後の外交交渉にかかる。

 被爆73年の夏、広島で開かれるシンポジウムは朝鮮半島をはじめ世界の核状況を多角的に分析し、核兵器禁止条約を軸として廃絶の流れを確かなものにするための提言が期待される。

 オーストラリアから来日する基調講演者のティム・ライト氏はICAN創設以来の中心メンバーで、子どもの頃から広島に折り鶴を届けてきた。各国に禁止条約批准を促す世界規模の運動の先頭に立つ。「核兵器の終わりの始まり」と題して、廃絶への道筋を語る。

 パネリストとして出席する成蹊大の遠藤誠治氏は、安全保障に詳しい国際政治学者だ。長崎大の鈴木達治郎氏は原子力政策と核軍縮・不拡散を専門とする。当日の討論は核抑止力に固執する被爆国日本の安全保障の在り方や、核燃料サイクルなどを含めた核政策にも及ぶ見通しだ。

 地元の広島市立大からは孫賢鎮(ソン・ヒョンジン)氏が討論に加わる。かつて韓国統一部にも籍を置いた北朝鮮問題の専門家で、歴史的な米朝首脳会談後の非核化への道について発言する。また中国新聞の金崎由美記者は、禁止条約制定を踏まえた被爆地の課題について報告する。

 パネルディスカッションに先立ち、米国やインドなど国内外で証言活動を続ける被爆者の岡田恵美子さん(81)=広島市東区=が核廃絶への思いを語る。討論の合間には、ピースボートの「証言の航海」で被爆者と世界を旅した経験を持つ広島のシンガー・ソングライター瀬戸麻由さん(27)が自作の歌を披露し、平和のメッセージを届ける。

開催に寄せて

■基調講演者

ICAN条約コーディネーター ティム・ライト

「核の傘」依存を問う

 私にとって、ICANがノーベル平和賞を受賞してから初めての広島訪問。核兵器の非人道性を訴えてきた市民、被爆者や専門家と共に、核兵器禁止条約をさらに前に進めるため私たちがすべきことを議論するのを心待ちにしている。

 日本とオーストラリアは共通した問題を抱える。米国の同盟国であり、「核の傘」に依存しているということ。核兵器廃絶に賛成する世論が圧倒的多数なのに、政府は相反する政策を堅持している、ということも。「核の傘」を是認することは核兵器は結局は必要、という「正当性」を認めることを意味する。そこを根本から変えるのが核兵器禁止条約だが、やはり両国とも背を向けている。

 自国の政策転換を市民から政治家に直接求めていくことが不可欠だ。オーストラリアで現在私たちが取り組んでいる活動についても紹介しながら、情報交換を深めたい。

ティム・ライト

 85年生まれ。オーストラリア出身。06年、同国発祥のICAN創設に参加。昨年ノーベル平和賞授賞式に参列。

■モデレーター(進行役)

広島市立大広島平和研究所教授 直野章子

被爆地の訴え強める

 核兵器禁止条約の成立やそれに続くICANのノーベル平和賞受賞は、核兵器廃絶への道を後押しする大きな勢いを生んだ。広島からの長年の訴えがあってこそだろう。この流れを維持し、さらに強めていく上で何が課題なのか。しっかり見据える機会にしたい。

 核兵器の問題は保有国はもとより、核抑止力を最重要視する日本の問題そのものだ。廃絶を阻む被爆国の現状を問うとともに、安全保障政策をどう転換していくべきかを考える。

 核兵器廃絶は日本を取り巻く東アジアの平和の実現とも切り離せない。北朝鮮の核放棄の見通しを巡り日本ではマイナス面を強調する論調が専らだが、この地域の市民が平穏に暮らせる未来への端緒にするための前向きな議論も必要だ。

 「北朝鮮の核」に限定せず、沖縄の基地問題や憲法の意義なども視野に入れ、力によらない平和への道を探りたい。

なおの・あきこ

 米アメリカン大卒、95年に同大で広島市と原爆展を開催。九州大大学院准教授を経て16年から現職。

国際シンポジウム「平和への扉を開く―核兵器禁止条約と、これから」
【主催】広島市立大・中国新聞社・長崎大核兵器廃絶研究センター
【日時】7月22日午後1時半~4時半(開場午後1時)
【会場】広島国際会議場(平和記念公園内)地下2階ダリア
【参加方法】無料、先着280人(申し込み不要)、同時通訳・手話付き。広島平和研究所☎082(830)1811。

(2018年6月25日朝刊掲載)

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