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ひろしま国 8・6探検隊 米国はなぜ原爆を2種類造ったの?

 
Q 米国はなぜ「広島(ウラン)型」と「長崎(プルトニウム)型」の2種類の原子爆弾を同時に造(つく)ったのですか。

構造別に開発同時進行

 米軍が広島と長崎に投下した原爆をそれぞれ「リトルボーイ(坊や)」「ファットマン(太っちょ)」と呼んでいたと聞いたことがあるよね。模型(もけい)の写真を見ると、広島型は細長く、長崎型はずんぐりとしている。

■核物質の違い

 こんなに形が違うのは、二つの原爆の構造(こうぞう)が全(まった)く違うためなんだ。その仕組みを長年、原子核物理学を研究している葉佐井博巳(はさい・ひろみ)広島大名誉教授(ひろしまだいめいよきょうじゅ)(76)に聞いた。

 広島型の構造はこうだ。細長い筒(つつ)の両端(りょうたん)に、核分裂(かくぶんれつ)に必要な量のウランを二つに分けて備(そな)え付(つ)ける。そして、片方のウランに爆薬を仕掛(しか)けて、二つのウランがぶつかった瞬間、次々に核分裂が始まり、膨大(ぼうだい)なエネルギーが発生する。

 一方、長崎型は爆弾の中心部にプルトニウを置き、周りにまんべんなく爆薬を配置する。一気に全方向からプルトニウムに圧力をかけ、核分裂を起こすんだ。

 でもなぜ、わざわざ同時に二種類の原爆をつくったんだろう。「原爆はこうして開発された」(青木書店)を執筆した東京工業大の山崎正勝(やまざき・まさかつ)教授(63)と、拓殖大(たくしょくだい)の日野川静枝(ひのかわ・しずえ)教授(59)に、背景をひもといてもらった。

 発端(ほったん)は一九三八年、ドイツの物理学者がウランの核分裂現象を発見したことにさかのぼる。これは科学上の大発見だった。このニュースは瞬(またた)く間に世界の科学者に知れ渡ったんだ。

 問題なのは、核分裂を使って一度に大量の人を殺せる爆弾を造ろう、と考えた人がいたことだよね。当時、第二次世界大戦を前に世の中はきな臭(くさ)い雰囲気(ふんいき)に包まれていた。特に英国では、新兵器開発が進められ、核分裂の発見も、すぐに原爆構想(こうそう)へとつながった。

 そして四一年、英国の構想が米国に伝わると、ルーズベルト大統領は科学者たちに開発を指示したんだ。ただし、この時点ではウラン型を想定(そうてい)していたようだ。科学者の間でプルトニウムの核分裂も予想されていたけれど、まだ実現できるレベルにはなかったからだ。

■1942年 米が本腰

 四二年、米国は国家を挙(あ)げて原爆開発に乗り出す「マンハッタン計画」に着手(ちゃくしゅ)した。それまでに、プルトニウムを作りだし、核分裂させることに成功。それも開発目標の一つに加わった。そして、原爆の研究が進むうちに、第二目標だったプルトニウム型開発が優先され、順位が逆転したんだ。

 なぜなら、ウラン型原爆に必要な「ウラン235」は、自然界にはごく微量(びりょう)しか存在しない一方で、プルトニウムは、核分裂を持続させる装置「原子炉(げんしろ)」さえあれば、どんどんできることが分かったからだ。その結果、アメリカは四五年七月までにプルトニウム型二つとウラン型一つの計三個の原爆を完成させることになる。

 葉佐井さんは被爆者でもある。「新しい発見を求めて研究にまい進するのが科学者。そして新しい武器を持てば使いたいのが軍人だ。でも人類のためにならないこんな研究は二度とあってはならない」と話している。(桑島美帆)

なるほどキーワード

核分裂
 中性子(ちゅうせいし)が衝突(しょうとつ)すると原子核が約半分に割れる現象。この時に、大きなエネルギーが発生する。

ウラン
 天然(てんねん)ウラン(原子番号92)には、同じ元素(げんそ)で質量の違う「ウラン238」と「ウラン235」がある。核分裂に使われるのはウラン235。ただし、わずか鉱石(こうせき)中に0.7%しか存在しないため、原爆をつくるためには、割合を人工的に高める必要がある。

プルトニウム
 原子番号94。核分裂を起こす元素でウラン238に中性子を当てて人工的につくる。ウランを濃縮(のうしゅく)するより簡単(かんたん)に増産できるので、長崎型原爆のほか、核兵器や原子力発電の核燃料に使われている。

(2008年3月10日朝刊掲載)

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