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社説・コラム

社説 核禁止条約 採択1年 被爆国の使命を果たせ

 核兵器を非合法化する初の国際法、核兵器禁止条約の採択から、今月で1年になった。被爆地として、核なき世界を目指す思いを新たにして、まだ残る課題を解決しなければならない。

 これまでに59カ国・地域が署名した。国内手続きを終えて批准したのは、うち11カ国・地域にとどまる。条約が効力を持つのに必要な50カ国・地域の批准には時間がかかりそうだ。1年前、採択に賛成した国・地域が122に上ったことを考えれば順調とは言い難い。被爆国日本も署名すらしていない。

 米国をはじめ核兵器保有国の強硬な態度が響いている。反対姿勢は、条約の議論が始まった頃から変わっていない。

 それどころか、米国は条約を批准しないよう、経済支援の必要なアフリカや中南米の国々に強く働き掛けているという。反対だけでなく、妨害までしているのであれば由々しきことだ。

 この条約は、核兵器廃絶を目指し、使用や開発、製造、保有はもちろん、威嚇も禁じるなど踏み込んだ内容である。核兵器の非人道性を原点に、核なき世界を訴えてきた被爆地の努力の成果と言えるのではないか。

 世界にはまだ1万4千発もの核兵器が存在する。東西冷戦下で6万発を超えたピーク時に比べ、大幅に減ったのは間違いない。それでも人類を何回も滅亡させられる数である。

 偶発的なミスがきっかけで核兵器が使われたり、核物質がテロリストの手に渡ったりする恐れは否定できない。そのリスクをゼロにするには、核兵器を全てなくすしかない。

 条約づくりを進めてきた国々と保有国との溝は埋まっていないが、国連が軍縮に一層前向きになったことは明るい材料だろう。国連として取り組むべき軍縮の課題を初めて包括文書にまとめた。核兵器など人類の存亡に関わる大量破壊兵器の廃絶を3本柱の一つに据えている。

 核なき世界は、世界の多くの人々の願いでもある。国連として積極的に推進することが求められる。グテレス事務総長が予定通り長崎市の平和祈念式典に参加するなら、核軍縮への強いメッセージ発信を期待したい。

 広島では、被爆者7団体が条約に署名、批准するよう日本政府に要望する。こうした動きは全国に広がりつつある。署名・批准を政府に求める意見書を可決した市町村議会は、全国の2割近い300近くに上る。

 ところが政府の方は条約に背を向け続けている。真っ先に署名・批准して、保有国や「核の傘」の下にある国々に自ら範を示すことこそ、被爆国の使命ではないか。それを放棄していると言わざるを得ない。「核の傘」に守られるより、核兵器をなくす方が本筋だと、地方の方が認識しているのだろう。

 米国など保有国には、条約が気に入らないなら、それ以外にどんな道筋で核兵器を減らすか国際社会に示す責任がある。

 そもそも米国やロシアなど五つの保有国は、核拡散防止条約(NPT)で核軍縮を進めるよう義務付けられている。それを怠ったため、国際社会の反発を招き、禁止条約につながったことを肝に銘じるべきだ。

 日本政府が「保有国との橋渡し」役を務めるというのなら、核軍縮に取り組むよう米国を粘り強く説得する必要がある。

(2018年7月16日朝刊掲載)

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