×

ニュース

研修中に「先生」死去も 広島市の被爆体験伝承者事業 養成継続へ対策求める声

 広島市の「被爆体験伝承者」の7期生を養成する研修が始まった。ただ、伝える被爆者の高齢化は進み、3年間の研修中に「先生」が亡くなって伝承者としてデビューできないケースも出始めた。(桑島美帆、増田咲子)

 6月初め、8人の伝承者養成を引き受けていた80歳代の被爆者の男性が亡くなった。証言活動でケロイドを見せて親が子を思う気持ちや命の大切さを訴え、2016年に伝承者の育成に加わった。研修は3年目で本人の体験を代わりに発信する原稿の作成段階に差し掛かっていた。

 今の仕組みでは研修期間が終わらないと伝承者に認定されない。「教え子」の沖西慶子さん(53)=安佐北区=は「原稿チェックを受けている途中だった。『早く語ってほしい』と何度も言われていたので本当に残念だ」と話す。

 伝承事業に協力する被爆者11人は80~90歳代が中心で、これまでにも4人の被爆者が亡くなっている。ただ市によると伝承者として原爆資料館などで活動してもらうには3年が必要だという。座学で原爆被害や核兵器を巡る状況を学ぶ。複数の被爆者の講話を聞いた上で特定の人と師弟関係を結び、体験を聞いて講話できるよう実習する―。

 市国際平和推進部の津村浩部長(55)は「体験と思いをしっかり伝授するには、時間が必要。協力してくれる被爆者がいる限り、制度を見直すことは考えていない」と説明する。

 一方で、市は「3年目で被爆者が亡くなり、講話実習に移っていた場合は柔軟な対応を検討したい」とする。今回、亡くなった男性に関しても、何らかの配慮をする方向だという。

 広島市に倣い、国や自治体が同様の取り組みを始めている。東京都国立市は15年から原爆や東京大空襲の伝承者育成事業を始め、32人が伝承者として活動する。同市の研修は15カ月。期間中に「先生」が亡くなったケースでは他の伝承経験者がフォローするなどして全員、伝承者になれた。

 ことし3月末までの広島市の伝承者への応募は通算で484人に上るが、活動するのは117人。元原爆資料館長の原田浩さん(78)=安佐南区=は「被爆体験をしっかり語れる人は85歳を超え、聞くとしたら今しかない。研修期間はできるだけ短縮すべきではないか。途中で亡くなった時の救済措置も必要」と語る。

 伝承者事業で9人の研修生を受け持つ被爆者の山本定男さん(87)=東区=は「気力で頑張っているが、もうすぐ90歳。この先、3年もできんと思ったら新しい受け入れをやめざるを得ない」と明かした。

(2018年7月16日朝刊掲載)

年別アーカイブ