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社説・コラム

社説 米露首脳会談と核軍縮 真摯な姿勢を求めたい

 米国とロシアの首脳が面と向かい、核軍縮協議に前向きな姿勢を示したことはひとまず評価したい。「新冷戦」と呼ばれるまでに悪化していた両国の関係が改善に向かうなら、緊張緩和という点では意味がある。

 米ロ間の新戦略兵器削減条約(新START)は2021年に期限を迎える。延長交渉に入れず、期限切れになってしまえば、軍拡競争に歯止めがかからなくなる恐れがあろう。

 新STARTは10年に合意した後、8年間にわたって新たな核削減交渉が実現していない。これは異常事態であり、核超大国である両国首脳の責任が強く問われているのである。

 だが、トランプ大統領の核を巡る一連の発言を思えば、これからが正念場だろう。

 トランプ氏は就任を前に「核戦力を大幅に強化、拡大しなければならない」とツイートしたため、私たちは「資質に大きな不安を覚えざるを得ない」と指摘した。就任後には「米国は核戦力で他国に劣るわけにはいかない」とも述べている。核超大国としての優位性を保とうという意識が根底にあり、到底容認できない。

 新STARTについても「一方的な合意」「不公平な取引」として見直しを示唆していた。新STARTは合意に基づき、両国に同じ配備数の制限を課すものである。これから核削減交渉に臨むのなら、過去の発言は訂正してもらいたい。

 プーチン大統領にも物議を醸す発言があった。ウクライナ政変に際し「(核兵器を使用する)準備ができていた」と公言した。トランプ氏の強硬発言に対し「いかなるミサイル防衛(MD)システムも突破できるよう戦略核の軍事能力を強化する必要がある」とツイッターに投稿したこともある。

 両首脳とも核保有の現実をまるごと肯定したまま、形ばかりの「成果」を強調するようなことがあってはならない。

 五大核保有国は、核拡散防止条約(NPT)で核軍縮を進めるよう義務付けられている。しかし、それをサボタージュしたため、国際社会の大勢が核兵器を非合法化する核兵器禁止条約の採択へと向かった。米ロは核軍縮に対し、もっと真摯(しんし)に向き合うべきである。

 今回の米ロ首脳会談は欧州諸国からは冷ややかに見られている。一つの問題は、ロシアによる米大統領選介入疑惑を曖昧なままにしていることだ。つまりトランプ氏は「トップ外交」をアピールしたいがために、プーチン氏の言い分を丸のみにしている感がある。米の与野党有力議員の間では「弱腰」との批判も強まってきたようだ。

 14年のロシアのクリミア併合も一因にある。欧州諸国としては武力による国境変更は認められないが、トランプ氏はこの問題を避けている。同氏がロシアを利する行いや発言をすればするほど、米欧の溝を深めることにもつながりかねない。

 「米国とロシアが仲良くすることは世界の平和にとってよい」という、トランプ氏の発言は正論だろう。しかし、核超大国同士が核戦力の均衡を保つ流れに向かうことは、あってはなるまい。日本は国際社会とともに、米ロが本格的な核軍縮に向かうよう、常に働き掛けなければならない。

(2018年7月18日朝刊掲載)

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