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中国5県行政回顧

 中国地方では2012年、広島県が景観論争の続いてきた福山市鞆町の鞆港埋め立て・架橋計画の撤回を表明し、山口、岡山両県では知事が16年ぶりに交代した。島根、鳥取両県では中国電力島根原子力発電所(松江市鹿島町)をめぐる対応に追われた。5県の県政の動きを担当記者が振り返った。

広島県

鞆架橋計画 知事が撤回

 江戸時代の港町の面影を残す福山市鞆町の鞆港埋め立て・架橋計画は原案作成から30年目のことし、大きな転換点を迎えた。湯崎英彦知事が6月に計画の撤回を表明。港の背後の山にトンネルを整備する案を提示した。

 橋を架ければ、景観が変わり、観光面でマイナスが大きいとの判断だった。地元では賛否が交錯した。県が7月に開いた住民説明会には架橋推進派の大半が欠席。2回目の説明会を開けなかった。架橋を求めてきた羽田皓市長も「住民の理解を得るのは県の仕事」と距離を置く。

 県は駐車場や防災施設整備などのまちづくり案も示している。狭い道が多く、人口減が進む鞆町の再生は待ったなしだ。県には住民に説明を尽くし、理解を得ていく努力が求められる。市もまちづくりを前に進めるため県と連携を図るべきだ。

 ことしは、湯崎知事が2009年の知事選で掲げた公約が相次いで形となり姿を見せ始めた。

 県の音頭で設立された官民出資の投資ファンド「ひろしまイノベーション推進機構」。4月、第1号の投資先に福山市の電気検査装置メーカーを選び、約9億円を投資した。

 ファンドは総額105億円。5年間で成長が見込める10社前後に投資する。企業支援のモデルを示し、県経済の成長に資することができるかが成否の鍵となる。

 首都圏に広島ブランドをPRする東京アンテナショップ「TAU(タウ)」は7月にオープン。県の運営費負担は年約1億円。目標に掲げる年間5億円の売り上げ達成の可否は、発信力を測る尺度の一つになりそうだ。

 観光客を呼び込むための「瀬戸内・海の道構想」では、瀬戸内しま博覧会(仮称)の14年開催に向け、愛媛県と実行委員会を設立した。

 秋には知事選が控える。湯崎知事は明言していないが、再選を目指すのは確実とみられる。「1期で結果を出す必要がある」と公約で訴えた湯崎知事の県政運営の成果が問われる2013年になる。(荒木紀貴)

山口県

岩国・上関 国策に揺れる

 ことしも米海兵隊岩国基地(岩国市)と、上関原子力発電所(上関町)建設計画をめぐる国策に揺れた一年だった。7月の知事選で産業再生などを掲げた山本繁太郎氏が当選。16年ぶりに県政トップが交代した。

 県は長年の懸案だった岩国市の愛宕山地域開発事業跡地を3月末、国に売却。在沖縄米海兵隊の一部を岩国基地に移転する案が浮上し、県は売却方針を留保する構えをみせたが、米側の移転断念を受けて巨額債務の解消を図った。今後、地元に反対意見も根強い米軍住宅の建設が進む。

 7月には垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ12機が、安全性が確認されていないとする県、市の反発をよそに岩国基地に搬入された。今月には米国防長官が最新鋭ステルス戦闘機F35を2017年に配備する方針を表明。14年を目標年とする空母艦載機の移転を含め、沖合移設した基地の機能強化への不安は一段と高まる。

 知事選は無所属の4新人が争い、二井関成前知事の路線継承を掲げて自民、公明両党の推薦を受けた山本氏が当選した。

 中国電力が建設を計画する上関原発は「凍結」と訴え、白紙撤回を訴える立候補者たちを退けた。就任早々、肺疾患で入院。公務復帰は9月上旬とつまずいた。上関原発計画をめぐり「不許可」を明言した中電の埋め立て免許の延長申請への最終判断も年明けとなる。

 国策の難題と向き合いながら、足元の地域振興をどう図るのか、新知事の手腕が試される。(金刺大五)

岡山県

知事16年ぶり交代

 16年ぶりに知事が交代する節目の一年となった。11月に就任した伊原木隆太知事は46歳で、岡山県知事としては戦後最年少。百貨店元社長で初の民間出身者だった。

 伊原木知事は就任後、学校現場を視察。文部科学省の調査で全国最低レベルだった児童生徒の暴力行為や不登校、低迷が続く学力の改善に力を注ぐ姿勢をアピールした。12月の県議会定例会も無難な答弁で乗り切った。

 職員にスピード感とコスト意識の徹底、「顧客」と呼ぶ県民ニーズの把握を求めるなど民間出身ならではのカラーも見せ始めた。一方で職員からは「私たちの常識が通じない」と戸惑う声が漏れているのも事実だ。

 真価が問われるのは初めて編成する2013年度当初予算。県財政は依然、厳しい。その中で「教育再生」とともに知事選で訴えた「産業振興」の道筋をどう描くのか。年明け早々、手腕が試される。

 石井正弘前知事は春先まで5選挑戦に意欲を示した。自然エネルギーの普及や岡山市への市民参加型マラソン創設に向け活発に動いた。ただ多選批判や自民党からの参院選擁立の打診も踏まえ、「県財政の再建に一定のめどが付いた」と退任を表明した。(永山啓一)

島根県

原発稼働が現実味

 中国電力島根原子力発電所(松江市鹿島町)で完成間近の3号機の建設続行を国が9月に容認し、稼働が現実味を帯びた。新政権も同様の姿勢を表明。中電は稼働を急ぐ構えで、来年は運転開始をめぐって溝口善兵衛知事の判断が問われる可能性がある。

 既存の原発は2号機が1月、定期検査入りし、停止中の1号機とともに稼働しなかった。原子力規制委員会は2013年7月までに安全基準を示す方針で、その後、再稼働手続きの進行も想定される。

 一方、県は規制委が原子力災害対策重点区域とした原発30キロ圏の住民39万6千人の避難計画を作った。11月には県内と中国地方3県70市町村から選んだ一時避難所149カ所を公表。入院患者たち災害時要援護者の避難時の安全確保など課題も多い。

 日韓両国が領有権を主張する竹島(韓国名・独島(トクト))には8月、韓国の李明博(イミョンバク)大統領が上陸。溝口知事と県議会は国際司法裁判所への単独提訴を国に求め、問題解決を訴えた。(樋口浩二)

鳥取県

原発事故の備え重視

 2011年に引き続き、中国電力島根原子力発電所(松江市鹿島町)の事故を想定した備えが重点課題の一つとなった。

 2月の原子力防災訓練に30キロ圏内の県や境港、米子両市が初めて参加した。平井伸治知事は、再稼働の判断について隣接県の意見を反映するよう国に求めた。

 中電には、安全協定の改定を両市と申し入れた。原発トラブル時の立ち入り調査など、立地自治体並みの権限を求め、中電と実務者協議を続けている。

 県がソフトバンクグループに誘致を働きかけていた大規模太陽光発電所(メガソーラー)は、来秋の稼働に向けて年明けに米子市の遊休地で着工の予定だ。(川崎崇史)

(2012年12月29日朝刊掲載)

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