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イワクニ2012 基地機能の多面化進む

 岩国市の米海兵隊岩国基地の機能多面化が一段と進んだ。今月13日、岩国錦帯橋空港が開港し、ほぼ半世紀ぶりに滑走路の民間利用が再開した。一方で、全国的に反対の声が沸き上がった垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの沖縄配備では、日本への陸揚げ基地の役割を担った。米軍住宅化が計画される愛宕山地域開発事業跡地は防衛省に売却され、アジアの米軍拠点としての機能も拡充されつつある。(大村隆、酒井亨)

オスプレイ陸揚げ

地元不安構わず強行

 安全性への懸念が渦巻く中、米軍は7月、オスプレイ12機を岩国基地に強行陸揚げした。試験飛行を繰り返して10月、配備先の米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)へと飛び去った。地元の声などお構いなしに進む米軍の計画。日本政府も「配備は米国が決めること」として、住民の心に深い無力感を残した。

 日米両政府が普天間配備後の一時駐機先として岩国基地を検討していることが明らかとなったのは3月7日。1カ月後の4月11日にオスプレイはモロッコで墜落した。米政府は岩国一時駐機を断念。市民の間に安堵(あんど)が広がった。

 だが6月8日には、普天間配備前に岩国基地へ先行搬入する日米両政府の方針が判明。環境審査報告書で岩国基地での運用内容が明らかになった13日には、今度は米フロリダ州で墜落した。飛行の安全性に対する住民の不安はピークに達した。

 市議会は先行搬入に反対する意見書案を可決。7月1日には森本敏防衛相(当時)が県、市に先行搬入への理解を求めたが、いずれも拒否した。しかし同日、12機を積んだ民間船は岩国に向けて米国を出発していた。23日には住民の抗議の中、陸揚げされた。

 その後の日本政府による「安全宣言」。そして、試験飛行、普天間配備は「結局、米軍の計画通り」と、地元の声が届かない現実を感じた住民は多い。配備時、「岩国で受け入れ、全国で日米安全保障条約を負担する契機にしろ」との声も聞かれた沖縄ではいま、小学校などがある市街地上空での訓練が常態化している。

 陸揚げ、試験飛行を阻止できず、結果的に沖縄配備に向けた重い扉を開けた。それは目前に迫る全国6ルートなどでの低空飛行訓練にも直結している。

 オスプレイに関する一連の出来事は、岩国基地の問題が決して地元住民だけでなく、全国を巻き込む可能性を秘めていることを強く意識させた。

愛宕山跡地売却

艦載機移転 受け皿着々

 県住宅供給公社(現在は解散)は3月、所有する愛宕山跡地約75ヘクタールを、米軍住宅の建設を計画する国へ売却した。2014年までに米海軍厚木基地(神奈川県)から岩国基地へ移転するとしている空母艦載機部隊の受け皿づくりは着々と進んでいる。

 1月29日の岩国市長選で、在日米軍再編に協力姿勢の現職福田良彦氏が、艦載機移転反対の2氏を退け再選。民意は、艦載機を受け入れる方向で地域振興や安心安全対策を国に求める福田氏の「現実的な対応」を選んだ。

 その8日後の2月6日、米政府が在沖縄米海兵隊のうち約1500人の岩国移転案を日本政府に打診していたことが判明。これを受けて二井関成知事(当時)は9日、愛宕山跡地の国への売却を留保する方針を表明した。

 米国側は日本側の拒否を受け、在沖縄海兵隊の一部移転については断念。二井知事と福田市長は3月22日に田中直紀防衛相(当時)と面会し、愛宕山跡地を国に売却する最終判断を表明。23日、県公社は国と売買契約を結んだ。

 艦載機移転を進めたい国側と、跡地事業の約169億円の赤字を解消したい県などが年度末ぎりぎりで折り合いを付けた。売却に反発した市民団体のメンバーらが県庁で二井知事に面会を求め、県職員と押し問答になる一幕もあった。

 跡地を買い取った国は、10月に測量を完了。米軍住宅などの基本設計を進める。一方、米軍住宅化に反対する「愛宕山を守る会」は10年8月から毎月3回の集会を重ね、これまでに延べ約4500人が参加している。天野一博事務局長(61)は「反対の意思表示として米軍住宅ができるまで集会は続ける」としている。

錦帯橋空港開港

経済効果に期待膨らむ

 岩国基地の滑走路を米軍と共用する岩国錦帯橋空港が12月13日、開港した。米軍の管制に従いながら、全日本空輸が1日4往復の東京便の運航を始めている。

 1964年以来、48年ぶりの民間空港の再開は地元にとっての「悲願」だった。経済効果や観光への期待が膨らんでいる。年末は帰省客で満席となり、利用状況も順調だ。

 ただ、艦載機移転をはじめ、本土訓練が迫るオスプレイの給油拠点、最新鋭ステルス戦闘機F35の配備計画など、基地の機能拡充をめぐる動きは加速している。空港が「米軍の許可を得て使用させてもらう立場」(国土交通省)である以上、安定運用に懸念も残る。

(2012年12月29日朝刊掲載)

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