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3.11とヒロシマ

グレーゾーン 低線量被曝の影響 第1部 5年後のフクシマ <7> 放射線 身近に教え学ぶ

 「あ、見えた!」。薄暗い教室に、児童の甲高い声が響いた。福島県いわき市の小名浜第1小学校であった理科の特別授業。5年生約60人が、ドライアイスとアルコールを使って霧箱を作り、微量の放射線が飛行機雲のように通過する様子を観察した。

長崎から参加

 白衣を着て教壇に立ったのは、高校理科の教員免許も持つ田村尚校長(60)。学校の敷地内にある放射線監視装置(モニタリングポスト)の数値にも触れて、「(いわき市で)原発事故が起きた時に飛んでいた放射線は、今はほとんどない」と解説した。

 授業には、県の交流事業で招かれた長崎市の山里小学校の児童2人も参加していた。山里小は爆心地から約700メートル。原爆で約1300人が亡くなっており、平和教育に力を入れている。今回の交流では、「福島県での放射線教育も体験したい」と要望していた。

 同行した吉本研二校長(56)は「被爆地では、放射線は怖いという思いが、どうしても先に立つ。正面から知ろうとする気持ちが大事」と実感した。福島で、放射線を身近なものとして学ぶ姿を目の当たりにして「長崎に帰ったら児童に考えさせたい」とも話した。

 放射線教育は、学習指導要領の改定で「エネルギー資源」の一環として2012年度から本格実施され、約30年ぶりに復活した。その準備の最中に東京電力福島第1原発事故が発生。福島県では、全ての小中学校で実施している。放射線の性質にとどまらず、被曝(ひばく)を防ぐ方法や食生活での注意点、除染まで幅広く教えている。

重点に違いも

 ただ、各自治体の教育委員会が作成した副読本などをつぶさに見ると、教え方に違いがある。それぞれの教委や自治体のアドバイザーを務める専門家のスタンスを反映している。

 伊達市は、副読本の約半分を割いて、市独自の除染や水質検査を紹介。「必要以上に放射線を怖がらず、進んで外に出て運動することが大切」と結ぶ。対照的に二本松市は、放射性物質が何十年も放射線を出す現実を説く。放射能については「みんなが違った考え方をしていてもおかしくない」と強調している。

 科学がまだ、答えを明確に出していない低線量被曝の影響。教育現場に身を置く田村校長は「どちらの考え方も間違っていない。分からないことを理由に、教えなかったり、学ばなかったりするのがいけない」と思う。県外に出た子どもたちは、いつか福島のことを聞かれることがあるかもしれない。「黙ったり、一歩引いたりせず、自分の考えをきちんと話してほしい」。そう願うからだ。(藤村潤平)=第1部おわり

放射線教育
 学習指導要領の2008年の見直しに伴い、12年度から中学3年理科で復活した。放射線の性質や利用を教える目的だったが、福島第1原発事故が発生し、軌道修正。原発事故の被害や影響、風評被害の防止にも重点が置かれている。

(2016年3月9日朝刊掲載)

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