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社説・コラム

『潮流』 若い行動力

■ヒロシマ平和メディアセンター長 岩崎誠

 豪雨禍に猛暑。厳しい状況にある広島の地で、核と平和を考える集いにどれだけ来ていただけるか。心配していたが杞憂(きゆう)だった。核兵器禁止条約や北朝鮮の非核化などをテーマに、中国新聞社と広島市立大などが開いた22日の国際シンポジウムは、満席に近い260人に参加いただいた。あらためて感謝したい。

 被爆者をはじめ中高年の方の姿が目立ったが、ヒロシマ平和メディアセンターが運営に携わった過去のシンポと比べて若い世代が多かったように思えた。オーストラリアから基調講演に招いた「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))の旗手の一人、ティム・ライト氏の吸引力のおかげかもしれない。

 ICANのノーベル平和賞効果だけではなかろう。ライト氏の世界を動かす若い行動力が日本国内でも注目されている。シンポジウム当日に33歳の誕生日を迎えた青年は、禁止条約が提案された8年前の核拡散防止条約(NPT)再検討会議から既に各国へのロビー活動を担っていた。

 子どもの頃、広島に折り鶴を送る活動に母国で加わったことが原点と聞く。会ってみると物静かにも見えたが、内に秘めたエネルギーを確かに感じた。シンポジウムに先立って松井一実広島市長を訪ねた折、ことしの平和宣言で日本政府に条約署名を迫ってほしいと、目上の市長に物おじせず説く姿も印象的だった。

 被爆地は「若い力」をどれだけ育てているだろう。本紙の平和のページで、平和活動や体験継承に取り組む若い世代を紹介する「あすへのバトン」を始めて2年半。最近は地元在住者より、東京など被爆地の外でヒロシマの思いに共感し、さまざまに動く人を取り上げることも増えた。

 ライト氏は広島を離れる直前まで若者たちと交流し、市民レベルで世論を盛り上げる必要性を強調した。その宿題をどう生かしていくか。

(2018年7月26日朝刊掲載)

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