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社説・コラム

『記者縦横』 イージスの配備 再考を

■防長本社 和多正憲

 見渡す限り一面の青田に夏の風が抜ける。丘陵に囲まれた山口県阿武町の宇生賀(うぶか)盆地。「この景色を防衛省の偉い人にも眺めてほしい」。集落で半世紀余り農業を営む原スミ子さん(75)は嘆いた。町はいま、北朝鮮への迎撃ミサイル配備計画で揺れている。

 国は6月、萩市の陸上自衛隊むつみ演習場を地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備候補地として公表。同町にも演習場の一部が立地する。原さんの自宅は裏山を挟んで数百メートルと近接している。

 日本海沿いの同町は演習場の北西に位置する。北朝鮮へ迎撃ミサイルを発射すれば町上空を飛ぶ。22、23日の国の住民説明会でも賛成意見はなく、配備撤回を求める声が相次いだ。町全体で拒否感は強い。

 一方、演習場は戦後、旧むつみ村(現萩市)が誘致し、地域振興を託した経緯もある。実際、国は地元対策で道路や集会所を整備した。今回の説明会でも人口減少にあえぐ山村への200人規模の人員配置や自治体の税収増といったメリットを強調している。

 「自衛隊さん」。旧むつみ村出身の原さんは親しみを込めて呼ぶが、配備の見返りを求める気はない。「交付金もコンビニもいらない。今のまま、子や孫が帰れる古里を残したい」

 国は25日、配備に向けた現地調査の開札延期を発表した。地元懐柔への対話姿勢の演出や「ガス抜き」に終わらせてはいけない。立ち止まり、耳を傾け、計画再考の契機とすべきだ。

(2018年7月27日朝刊掲載)

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