×

ニュース

「知の拠点」構想 暗礁 広島大跡地再開発 土地交換が頓挫

 広島市などが進める中区の広島大本部跡地(11ヘクタール)の再開発で、市と国立大学財務・経営センター(千葉市)がそれぞれ跡地内に所有する土地を交換し、民間が参入しやすい用地を生み出す計画を白紙にすることが11日、分かった。用地売却の見通しが立たないことなどが理由。土地交換の頓挫で、市中心部に位置する未利用公有地の再開発は仕切り直しを迫られる。

 市と広島大の「知の拠点」構想に基づき2009年度末に決定した現計画は、センターが所有する被爆建物の旧理学部1号館を含む敷地(4ヘクタール)の一部を市東千田公園(3ヘクタール)の一部と交換。その後、センターの土地を購入する民間事業者を公募する内容だった。

 土地交換は、1号館を市が引き取って土地の形状を整え、マンションや商業・オフィスビルの建設を促すのが目的。1号館は市が保存活用を検討する。

 だが、交換後にセンターが売却する国道2号沿いの敷地は周辺で渋滞が起きやすいことから交通面や環境面の課題を指摘する事業者が多く、ニーズは低調という。

 また、地元の4町内会と2商店街が「防災上の観点から必要」と公園存続を市に要望。これらを考慮し、市とセンターは土地交換を断念するとみられる。

 打開策として市は、1号館と敷地の一部を購入する方向で調整する。だがセンターの提示額と市の購入希望額の開きは大きく、合意に至るかは流動的だ。市都市機能調整部は「近く今後の方向性を示す。現時点でコメントできない」とする。

 「知の拠点」構想で広島大は跡地内の東千田キャンパス(2ヘクタール)で、構想の中核となる知的人材育成センターの建設を検討する。(藤村潤平)

見直し急務 広島市 被爆建物 扱い焦点

 広島市と広島大が進める「知の拠点」構想に基づく広島大本部跡地(中区、11ヘクタール)の再開発は、市と国立大学財務・経営センター(千葉市)の土地交換が白紙となり暗礁に乗り上げた。構想に協力姿勢を示すセンターも2013年度末の廃止が決まっており、市は再開発計画の見直しを急ぐ。(藤村潤平)

 センターは所有する土地の売却期限を12年度中としていたが、土地交換の白紙化を受けて延期する見通しだ。延期されれば04年以降、10回目となる。

 市の要請を受け入れてセンターが延期を繰り返したのは、民間参入による再開発とともに教育施設を集積する「知の拠点」構想に対して理解を示していることが一因だ。

 しかし、センターは民主党政権下での事業仕分けを経て13年度末での廃止が閣議決定されている。センターが存続中に売却できなければ、所有地は財務省などに移される可能性がある。売却を最優先にする方針に転換すれば「知の拠点」構想自体が揺らぎかねない。

 市が再開発計画を練り直す中で最大の焦点になるのは、センター所有地にあり、老朽化が著しい被爆建物の旧理学部1号館の取り扱いだ。

 1号館をめぐっては被爆体験の継承などを目的に保存活用を求める声がある。市は土地交換で1号館を市の所有にし、保存活用の際は、費用に交換後の市有地の売却益を充てる意向だった。

 市は1号館を含めた土地購入の検討を始めた。ただ市議会では「壊して再開発した方がいい」と、財政難などを理由に建物全体の保存活用に否定的な意見も根強い。

 再開発のパートナーである広島大の関係者は「1号館の保存活用は市にしかできない。この問題を乗り越えない限り再開発は実現しない」と事態を注視する。

「知の拠点」構想
 広島市に明治以来置かれた広島高等師範学校など人材育成の拠点としての伝統を生かし、広島大本部跡地11ヘクタールのうち既にマンションなどに活用されたエリアを除く9ヘクタールを再開発する構想。2006年に県内の6大学の学長が提案し、市と広島大が進める。08年、公募で開発事業者に選んだアーバンコーポレイションが経営破綻、出直しになった。跡地内にある被爆建物の旧理学部1号館は鉄筋の腐食やコンクリートの劣化が深刻化。耐震性が低いと判明している。

(2013年1月12日朝刊掲載)

年別アーカイブ