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社説・コラム

社説 辺野古承認の撤回表明 強行する国の責任重い

 沖縄県の翁長雄志(おなが・たけし)知事はきのう、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設を巡り、前知事による辺野古沿岸部の埋め立て承認の撤回に向けて手続きに入ると表明した。撤回は、承認後の情勢の変化を理由に許認可などの行政処分を取り消しできる法的措置である。移設反対の立場を取る翁長県政にとって、残された「最後の一手」といえよう。

 政府は8月17日にも本格的な埋め立て工事に着手すると、既に県に通知している。辺野古海域への土砂投入が始まれば、原状回復は困難になる。翁長知事は「あらゆる方法を駆使して、新基地はつくらせないとの公約実現に全力で取り組む」と強調した。12月の任期満了が迫る中、不退転の決意で阻止しようとしているのだろう。

民意に耳傾けよ

 県をここまで追い込んだのは、国のなりふり構わぬ姿勢にほかなるまい。菅義偉官房長官はきのうも「移設工事を進める考え方に変わりがない」と述べた。その上で、2016年に県が敗訴した最高裁判決を挙げ、「判決の趣旨に従い、国と県の双方で互いに協力し、誠実に対応し、埋め立て工事を進めていくことが求められる」などと説明した。

 「誠実に」というならば、しゃにむに工事を進めるべきではなかろう。いったん立ち止まって県との協議を再開するなど、地元の民意にも耳を傾けるべきではないか。

 沖縄には今も在日米軍専用施設の70・3%が集中している。戦後も米軍の軍事作戦に協力させられただけでなく、基地がある故の事件や事故は絶えない。住民は常に危険と隣り合わせにあるといってもいい。第2次大戦時の沖縄戦同様、「捨て石」にされ続けているのが現実だ。

 翁長知事は承認撤回を表明した会見の冒頭で、朝鮮半島の非核化と緊張緩和に向けた米朝の努力が続けられていることに触れた。その上で「20年以上も前に決定された辺野古新基地計画を見直すことなく強引に推し進める日本政府の姿勢は容認できるものではない」と政府の姿勢を批判した。正論だろう。

 そもそも普天間返還について日米両政府が合意した当時、構想されたのは撤去可能な海上施設だった。今計画が進む恒久的な新基地とは異なるではないか。「平和を求める大きな流れから取り残されているのではないか」との指摘もうなずける。外交や安全保障政策は、情勢に合わせ更新すべきである。

環境面でも問題

 政府が辺野古移設の大義名分として強調する「普天間飛行場の危険性除去」についても疑義を唱えた。昨年6月、稲田朋美防衛相(当時)は国会答弁で、米側との調整が整わなければ普天間は返還されないと述べている。「返還のための辺野古建設という理由が成り立たなくなった」という翁長知事の言い分はもっともだ。

 埋め立て工事は、安全性や環境保全の面から見ても問題が大きい。海域に生息するジュゴンやサンゴへの影響も問題視され続けている。県は、撤回の理由として、沖縄防衛局が環境保全策を示さずに着工したことや、地質調査で辺野古の地盤が極めて軟弱であると判明したことを挙げた。これまで工事中止の行政指導もしてきたが、同局は「問題ない」との一点張りで従わなかったという。

県民投票も視野

 一方、沖縄では、辺野古の海の埋め立ての是非を問う県民投票の実施が、現実味を帯びてきた。県民投票条例制定を直接請求するために市民有志が23日まで集めた署名は、法定必要数を大きく上回る7万7千筆に上っている。翁長知事は会見で「政府もこれだけ多くの県民が署名を行った重みにしっかり向き合ってほしい」と訴えた。

 しかし国は撤回の無効化を求め、直ちに取り消し訴訟の提起など、法的措置で対抗する構えである。今国に求められているのは、対立を先鋭化することではあるまい。最後の一手で抵抗せざるを得ない沖縄の民意をくみ取る姿勢こそ必要である。

(2018年7月28日朝刊掲載)

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