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住宅地隣接 強い拒否感 地上イージス候補地の秋田ルポ

住民「緊張緩和の動きに矛盾」

 地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の山口、秋田県内への配備計画を巡り、地元が懸念する中、防衛省は急きょ現地調査の開札延期を決めた。「レーダーの電磁波の影響は」「北朝鮮の攻撃目標にならないか」。萩市と共に「最適候補地」とされる秋田市は住宅密集地に近く、住民に加えて県知事らも強く反発する。配備撤回の声が高まる現地を訪ねた。(和多正憲)

 「住宅街にミサイル基地はいらない」。27日午前8時すぎ。通勤ラッシュの車が行き交う秋田市勝平地区の交差点そばで市民団体共同代表の佐々木勇進さん(73)がマイクを握っていた。計画が閣議決定された昨年12月から週1回、地元住民と街頭に立ち続ける。

学校や市役所

 陸上自衛隊むつみ演習場(萩市)と並び、国が候補地とする陸自新屋演習場(秋田市)。近隣の勝平地区には約5400世帯の約1万3千人が暮らす。1キロ圏内には学校、3キロ圏内には県庁や市役所もある。山村の開拓地だったむつみ演習場とは立地条件が大きく異なる。佐竹敬久知事ら地元自治体も反発を強め、国は8月2日を予定した現地調査の開札延期を決めた。

 1954年開設の新屋演習場は広さ約105ヘクタール。日本海沿いに南北2キロ、東西800メートル延びる。自宅が約300メートルと近接する佐々木さんと現地を歩いた。

 ゴルフ場と演習場に挟まれた市道を抜け、全周約5キロの周辺路を巡ると出入り口があった。有刺鉄線が張られたフェンスの外から、自衛隊員の準備風景が垣間見える。時折、隊員から笑顔もこぼれ緊迫感はない。佐々木さんは「いまは演習に使うだけ。迎撃ミサイルが配備されたら警備は厳しくなるはず」と懸念する。

「反対で一致」

 勝平地区の16町内会でつくる振興会は25日、「住宅密集地への配備は容認できない」として反対を決めた。演習場に最も近い勝平台町内会の五十嵐正弘会長(70)は「電磁波が心配。子や孫の代まで影響する問題だ」と指摘。同じく近接する松美ガ丘北町内会の長谷部一会長(70)も「約500メートルと近距離。町内は反対で一致している」という。

 週末の28日。市内であった国の住民説明会には市民約150人が詰め掛けた。前方に並んだ防衛省内部部局(内局)の背広組と制服組の自衛隊幹部が北朝鮮の脅威を挙げ、配備の必要性を訴えた。ただ、資料は山口県の時と同じ。話した内容も目新しさはなかった。

 国は30日、弾道ミサイル発射に備え、広島県海田町の陸自駐屯地などに展開する地対空誘導弾パトリオット(PAC3)部隊の撤収を発表。すでに自治体による避難訓練も中止した。いずれも米朝首脳会談後の緊張緩和を受けた動きだ。

 「なぜ地上イージスの配備計画だけ強行に進めるのか。国の対応は矛盾している」。住民説明会を訪れた佐々木さんは憤る。「米国の武器を買うよう大統領から要求されているのか。首相は地元の声を聞き、計画を見直してほしい」

イージス・アショア
 海上自衛隊のイージス艦と同様のレーダーやミサイル発射装置などから構成される地上配備型の弾道ミサイル迎撃システム。政府が2017年12月に国内2基の導入を閣議決定。23年度の運用開始を目指している。防衛省は18年6月、陸上自衛隊むつみ演習場(萩市)と陸自新屋演習場(秋田市)をそれぞれ「最適候補地」として公表した。

(2018年7月31日朝刊掲載)

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