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連載・特集

マンハッタン計画 75年後の核超大国 <4> 核の夏

開発の歴史 再評価危惧

あらがう市民・団体活動も

 日干しれんがの美しい家並みが広がるニューメキシコ州の州都サンタフェに足を運んだ。米国が原爆を開発したマンハッタン計画を進めた1940年代前半、ロスアラモスを目指す人たちが降り立つ「玄関口」だった。今も約60キロ離れたロスアラモスに通勤する人が少なくない。

展示やオペラ

 7月2日、サンタフェ市内の教会に、反核団体「ロスアラモス・スタディーグループ(LASG)」のメンバーや市民が集った。

 米国の核政策の現状に続いて議論したのが「アトミック・サマー(核の夏)にどうあらがうか」。この夏はマンハッタン計画に関する企画展、シンポジウムやオペラ上演がめじろ押し。ゆかりの地の国立歴史公園化を推進した団体が軒並み協力者に名を連ねる。一連のイベントのキャッチフレーズが「核の夏」なのだ。

 「負の歴史をロマンとして再評価する動きだ」と、メンバーのブライアン・モウさん(38)は指摘する。

 「原爆の使用や現在も続く核戦力保持について、是非を根本から問い直すものではない」とLASG代表のグレッグ・メローさん(68)も言う。トランプ政権が打ち出した弾頭の核心部分、「ピット」の製造再開方針に強く反対している。

 彼らは国立歴史公園化の動きも、かねて批判してきた。指定施設を所有するのは核戦力を支えるエネルギー省であり、その意向に背く展示ができるとは思えない、と考えるからだ。

 集会から約2週間後、メローさんは「核の夏」に目に見える形であらがった。マンハッタン計画を途中で去り、核兵器廃絶運動に身を投じた物理学者、故ジョゼフ・ロートブラッド氏の顔写真を入れたチラシを用意。原爆開発を率いた物理学者オッペンハイマーを題材とするオペラの上演会場の駐車場で、観客たちにピット製造反対を説いた。

被害に触れず

 福山市出身のニュージェント安代さん(41)も、お祭りムードを危惧しながら連携して活動している。ニューメキシコ州歴史博物館で6月に始まった企画展「核の歴史」が原爆被害に触れていないことに驚き、友人と平和活動を始めた。爆発音と「流行」を想起させる「BOOM(ブーム)」を見出しに取った企画展の雑誌広告にも衝撃を受けた。

 「まずは目に留めてもらうことから」と頭上に大きな折り鶴を載せ、博物館前で「ヒロシマ・ナガサキ抜きの『核の歴史』は不完全だ」とプラカードを掲げた。ただ地元紙で報じられると、ウェブサイトの読者コメントで「日本の(戦争中の)中国での行いも思い出すべきだ」と書き込まれた。ニュージェントさんは「その通り」と返信した。自国の戦争の負の歴史と向き合うべきは日本も米国も同じ、と思いを込めた。

 この夏の動きには、被爆地感情を一定に意識したものもあるとも感じながら、「いずれにしても被爆地の視点に直接触れる機会は圧倒的に不足している」とニュージェントさん。広島の原爆資料館の協力を得てサンタフェで原爆展を開く計画を温めている。

 「事実を知ることで、核兵器の肯定ではなく反核平和を求める市民の意識につながってほしい」。ロスアラモスとつながりが深い土地で会場探しに不安もあるが、諦めず実現させるつもりだ。(金崎由美)

(2018年8月2日朝刊掲載)

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