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社説・コラム

『想』 萩原麻未(はぎわら・まみ) 広島の想いを引き継ぐ

 広島生まれ、広島育ち。家族も親戚もみんな広島に住んでいて、私は生粋の広島っ子です。小さい頃からそうやって当たり前のように育ってきましたが、フランスに留学した頃からでしょうか。さまざまな国籍の方との出会いの中、広島で生まれ育ったということをより意識するようになりました。出身地は広島ですと答えて、広島を知らない方は一人もいませんでした。

 私の母方の祖父母は原爆が投下された日、爆心地から半径1・8キロと1・5キロの地点にいました。祖母は自宅の前に細い脇道があったおかげで、家が焼けずに済みました。祖父はいつも朝8時には仕事に出掛けていたのですが、その日たまたま祖父の父親と話し合いが続いて出勤が遅れ、家の中にいたため原爆の熱射を浴びず生き延びることができたそうです。もし祖父母があの時命を落としてしまっていたら、私がこの世に生まれてくることはありませんでした。

 あの惨劇を二度と繰り返さないため、私たちは次の世代へ、世界の人々へ語り継がなければいけません。同時に私が今感じているのは、日本以外の人々の歴史や環境などの背景も同じくらい知らなければならないということです。ヨーロッパだけでなくアジアの国の方々とも出会って、みんなのさまざまな時代背景や環境をより身近に感じるきっかけとなりました。このような話はとてもデリケートで、普段の会話からはなかなかすぐに語り合えるものではありません。けれど音楽が、人と人との関係をより親密にしてくれました。音楽に心から感動し、その空間を共有することで見えない壁を飛び越え、心と心のつながりを感じることができました。

 人は過去を経て今があり、そして未来があります。原爆の惨劇から復興を遂げた方々のことを想(おも)うと、胸が締め付けられるような気がします。今こうして緑あふれる平和な街広島があるのは、復興にご尽力くださった皆さんのおかげです。その想いを私たちが引き継ぎ、一人一人の力が大きな力となって平和な世界へ導くことができたらと思っています。(ピアニスト)

(2018年8月3日セレクト掲載)

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