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ヒロシマの意義問う  被爆73年 原爆の日

 核兵器禁止条約の採択から1年余りが過ぎた。各国で批准が進んでいるとは言い難い。歴史的な米朝首脳会談が実現したものの、朝鮮半島の非核化への確かな道筋は、まだ見えない。原爆投下から73年。ヒロシマの意義が問い直される中、被爆地広島は6日、原爆の日を迎える。

 昨年10月、条約制定の原動力になった非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN、本部スイス・ジュネーブ)がノーベル平和賞に決まった。「賞は広島、長崎の被爆者のためのもの」。ICANが表明したように、核兵器の非人道性を証言し続けてきた被爆者の信念と努力に光が当たった。

 しかし、条約の推進国と核兵器保有国との分断はむしろ深まっている。核兵器を非合法化する初の国際法は、50カ国・地域の批准で発効するが、国内手続きを終えて批准したのは、まだ14カ国にとどまる。米国の「核の傘」の下にある日本政府も反対したままだ。

 6月の米朝首脳会談で、両首脳は「朝鮮半島の完全非核化」に合意し、融和路線へとかじを切った。だが、その前段では核兵器の威力を誇示し合い、核抑止論を信奉する姿を見せつけた。

 非核三原則を掲げる日本でも近年、国政で米軍核兵器の国内配備論が公然と持ち上がる。被爆者は長年、身をもって原爆の悲惨さを訴え続けてきた。その思いを踏みにじる発言が飛び交っている。

 広島市が平和記念公園(中区)で営む平和記念式典で、松井一実市長は、条約を核兵器廃絶への「一里塚」とするための取り組みを世界の政治指導者に求める。東西冷戦期のような緊張関係が再現されかねない状況だと警告し、指導者に「理性」も求める。安倍晋三首相は原爆慰霊碑の前で、被爆国としての姿勢を明確にする必要がある。

 ヒロシマの発信力が試されている。被爆者は15万4859人。平均年齢は82・06歳になった。受け継がねばならない体験に改めて耳を傾け、行動の糧にしたい。(野田華奈子)

(2018年8月5日朝刊掲載)

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