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社説・コラム

天風録 『あす8・6』

 「人類にとっての勝利である」。部分的核実験禁止条約が成立し、当時のケネディ米大統領が、胸を張った。ソ連と英国を含む3カ国が調印し、きょうでちょうど55年▲大気圏内などに限ってはいるものの、核実験を禁じる初の国際ルールとなった。拡大する一方だった冷戦下の軍拡競争に待ったを掛けたのは確かだろう。地球滅亡までの残り時間を示す「終末時計」の針も12分前まで戻り、危機は以前より遠のいた▲しかし保有国による上からの軍縮だったせいか、「抜け穴」は広がっていく。大気圏内での核実験が駄目なら地下でやればいいと。実際、核実験は増え廃絶など程遠い状況に陥った▲その後も上からの軍縮は進まず半世紀が過ぎる。ならばと、草の根を軸に「抜け穴」のないものを目指して生まれたのが核兵器禁止条約である。保有国が嫌悪するのもいかに「穴」をふさいだかの証しと言えよう。賛同国の署名が昨年秋に始まって、初めての8・6があすに迫る▲ケネディ大統領は、ホットラインの締結でもソ連と合意した。米朝関係を見ずとも、対話が対立の先鋭化を防ぐのは明白である。被爆地が訴えてきた、核も戦争もない世界にもつながるはずだ。

(2018年8月5日朝刊掲載)

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