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「あの日」向き合う決意  カープ山本元監督の兄 宏さん  8・6式典初出席へ「記憶風化させぬ」

 広島東洋カープ元監督の山本浩二さん(71)の兄で被爆者の山本宏さん(80)=東京都江戸川区=が6日、広島市の平和記念式典に初めて出席する。悲惨な光景を思い出したくなくて、式典のテレビ中継さえ見るのを避けてきた。昨夏、初めて都内で証言したのを機に、記憶を風化させまいと「あの日」と向き合う。

 今の広島市西区己斐地区の自宅そばで被爆した。当時、己斐国民学校(現己斐小)2年生。気付くと辺りは真っ暗で、後頭部や腕を焼かれていた。右耳に触れると肉が落ちた。自宅にいた祖父母や母と弟、友人の家にいた妹も被爆。勤務地の大阪から駆け付けた父親も入市被爆した。「大きな心の傷。家族もあの日のことは話さなかった」。被爆翌年に生まれた4人きょうだいの末っ子、浩二さんにも話さなかった。

 被爆後、父の仕事の関係で佐伯区に引っ越した。2015年、70年ぶりに己斐の町を歩く機会があった。辺りは様変わりし、記憶も曖昧で、被爆した場所が分からなかった。「話さないと記憶が全て消えてしまう」。昨年7月、江戸川区の原爆犠牲者追悼式での証言を引き受けた。

 当時を思い出そうとすると、今も恐怖や米国への怒りが湧くという。言葉に詰まりながら、振り絞るように証言した経験が式典参列への思いを強めた。「過去から逃げてきた。向かっていかないと克服できない」

 5日、中区であった被爆証言を聞く催しに参加した。「今、伝える使命感を感じている。式典では感情が高ぶると思うが、多くの亡くなった方の冥福を祈りたい」と宏さん。6日は式典終了後、母校の己斐小を訪れ、趣味の詩吟を通じて平和への思いを児童に伝える。(江川裕介)

(2018年8月6日朝刊掲載)

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