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社説・コラム

天風録 『豪雨の夏、73年を経て』

 青空が一瞬にして消えて広島にきのこ雲が立ち上った。人類が初めて経験する忌まわしい災厄、原爆である。生き延びたものの、傷ついてうめく人々を1カ月余り後、今度は暴風雨の黒雲が覆った。枕崎台風である▲県内の死者は2千人以上。宮島対岸の陸軍病院を山津波が襲った。収容治療中の被爆者ら156人が犠牲となる。原爆調査に入った京都大医学部・理学部の教官や学生も。柳田邦男氏の名著「空白の天気図」に詳しい▲73年を経たこの夏、未曽有の豪雨が西日本を襲う。土砂崩れや川の決壊で多くの死者と不明者を出した。被害は広島県と岡山県で甚大だった。土砂は原爆死没者を悼む思いも、のみ込む。復旧作業に精いっぱいで各地の慰霊祭がやむなく中止・縮小された▲原爆禍の継承は大丈夫か。心細くなるが、広島湾岸では土砂に埋もれた慰霊碑を元通りにしようと立ち上がった人がいる。被災地で汗流すボランティアも、核廃絶の思いは同じはず。けさは静かに手を合わせるだろう▲いつの時代も私たちは天災に苦しめられる。自然の前では小さな存在なのだから。それなのに自らを傷つけ、滅ぼす核兵器を生みだして手放さない。何と愚かなことか。

(2018年8月6日朝刊掲載)

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