×

ニュース

湯崎知事が核抑止力批判 たとえ話用いて 平和記念式典

 広島県の湯崎英彦知事は6日の平和記念式典のあいさつで、核抑止力による力の均衡を信じている国々について問題提起をした。「子どもに説明するとすれば」として、核抑止力の本質をわが家とお隣の関係になぞらえ、「核抑止のくびき」を乗り越えるよう求めた。

 湯崎知事のあいさつ全文は次の通り。

 原爆犠牲者の御霊(みたま)に,広島県民を代表して,謹んで哀悼の誠(まこと)を捧げますとともに,今なお,後遺症で苦しんでおられる被爆者や,ご遺族の方々に,心からお見舞い申し上げます。

 草木も生えないと言われた被爆75年をあと二年後に控え,私たちは今大きな波にさらされています。

 一筋の光明は,広島と長崎で我々が潜り抜けた筆舌に尽くし難い非人道的な経験が,本当は口にしたくもない被爆者の長年にわたる証言によって多くの国に共有され,核兵器の非人道性に軸足を置いた核兵器禁止条約が国際的に合意されたことです。

 他方,世界では各地で国際的緊張が高まり,核兵器国は競って核兵器の更新や能力向上,さらには「使える核兵器」の開発にまで進もうとしています。これは,未だに核兵器国を中心とする国々が,核抑止力による力の均衡を信じているからです。

 では,核抑止力の本質は何か。簡単に子供に説明するとすれば,このようなものではないでしょうか。

 「いいかい,うちとお隣さんは仲が悪いけど,もし何かあれば,お隣のご一家全員を家ごと吹き飛ばす爆弾が仕掛けてあって,そのボタンはいつでも押せるようになってるし,お隣さんもうちを吹き飛ばす爆弾を仕掛けてある。一家全滅はお互い,いやだろ。だからお隣さんはうちに手を出すことはしないし,うちもお隣に失礼はしない。決して大喧嘩にはならないんだ。爆弾は多分誤作動しないし,誤ってボタンを押すこともないと思う。だからお前は安心して暮らしていればいいんだよ。」

 一体どれだけの大人が本気で子供たちにこのような説明をできるというのでしょうか。

 良き大人がするべきは,お隣が確実に吹き飛ぶよう爆弾に工夫をこらすことではなく,爆弾はなくてもお隣と大喧嘩しないようにするにはどうすればよいか考え,それを実行することではないでしょうか。

 私たちは,二度も実際に一家を吹き飛ばされ,そして今なおそのために傷ついた多くの人々を抱える唯一の国民として,核抑止のくびきを乗り越え,新たな安全保障の在り方を構築するため,世界の叡智を集めていくべきです。NPT運用検討会議も開催される二年後の被爆75年に向けて,今こそ世界に向けて立ち上がり,行動するときです。

 私たちの,そして世界中の子供たちに,本当の安心をもたらしてやるために全力を尽くすことが,我々日本の大人たちの道徳的責任だと確信いたします。

 結びに,広島県としても、将来の世代のために核兵器を廃絶し,誰もが幸せで豊かに暮らせる平和な世界を残すことができるよう,世界の皆様と行動していくとともに,高齢化が進む国内外の被爆者援護の更なる充実に全力を尽くすことを改めてここに誓い,平和へのメッセージといたします。

平成30年8月6日
広島県知事 湯崎 英彦

年別アーカイブ