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僧侶が語り継ぐ被爆体験 児童向け証言活動や本出版

月1回講話の「伝承者」も

 広島で被爆した僧侶たちが体験を語り継ぐさまざまな活動をしている。寺に小学生を招いて命の尊さを伝えたり、体験を記した本を出版したり。戦後生まれの僧侶が市の「被爆体験伝承者」として活動を始めるなど、取り組みも広がっている。(久行大輝)

 広島市東区の浄土真宗本願寺派安楽寺前住職で被爆者の登世岡浩治さん(88)。1998年から毎年、寺の本堂に地元の児童を招くなどして体験を伝えている。今年は6月に本堂で早稲田小3年生49人に体験を語った。

 15歳の時に動員先の工場で被爆し、12歳だった弟を亡くした。「焼け野原で弟を捜し回った。寺に生まれながら、弟が亡くなるまで人の死を知らなかった」と振り返り、「きょうだいや友だちとけんかしても、すぐに仲直りしてほしい。平和な世に生まれることは有り難いこと」と訴えた。

 児童には、境内にある被爆した大イチョウに触れてもらい、命の大切さも教える。登世岡さんは「原爆を身近に受け止め、平和について考えてほしい」と望む。

 高野山真言宗寶勝院(中区)名誉住職の国分良徳さん(89)は4年前から、広島を訪れる修学旅行生や観光客に体験を話している。

 「突然、ピカッと鋭い閃光(せんこう)を浴び、吹き飛ばされた。頭を打ち、夢の中で『死んだかな』と思った」。7月27日、平和学習で国立広島原爆死没者追悼平和祈念館(中区)を訪れた長野県下諏訪町の中学3年生8人に語り掛けた。

 国分さんは16歳の時、爆心地から約1・8キロの寺で被爆し、本堂の下敷きになって額の骨が陥没。9人家族のうち母と妹弟の計4人を亡くした。2年前には、家族が犠牲になったことを示す死亡届などの資料を原爆資料館(同)に寄贈。被爆した仏像などの写真とともに体験を記した本「広島の歴史と被爆体験記」も出版した。「本は子どもにも読みやすい内容にした。悲しみを知ってもらい、戦争を起こさない力になれば」と強調する。

 戦後生まれの僧侶も体験の伝承に取り組んでいる。現在の平和記念公園内で73年前に本堂などが全壊し、中区大手町に移して再建された本願寺派浄寶寺の住職、諏訪義円さん(45)。2年前から市の「被爆体験伝承者」として活動している。

 計3年間の研修を積み、学徒動員中に被爆した女性の体験談を引き継いだ。月1回のペースで原爆資料館での講話に臨む。

 同寺の前住職で父の了我さん(85)は、原爆で父母と姉を亡くし、これまで積極的に体験を語ってきた。義円さんは「伝承者として被爆者の言葉や思いを伝え、原爆の悲惨さを考える契機にしてほしい」と願う。

(2018年8月6日朝刊掲載)

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