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批准求めず 被爆者落胆 長崎は賛同を要請 広島平和宣言

 広島市の松井一実市長は6日の平和宣言で、昨年に続いて日本政府に核兵器禁止条約の署名、批准を直接求めなかった。長崎市は9日の「長崎原爆の日」の平和宣言で条約への賛同を明確に求めるだけに、広島の被爆者に落胆の声が上がった。(江川裕介、水川恭輔、新山京子)

 「国際社会が核兵器のない世界の実現に向けた対話と協調を進めるよう、役割を果たしてほしい」。松井市長は宣言で、条約に反対姿勢を貫く政府に求めた。政府は、核兵器保有国と非保有国の対話を通じて核軍縮の「橋渡し役」になると繰り返す。その方針に大きくは沿う要請だった。

 「なまっちょろい。平和宣言に、政府のお膳立てをする行政の色が濃くなってきた」。広島県被団協の坪井直理事長(93)は懸念した。もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長(73)も「広島の条約に対する思いが問われる」と語気を強めた。

 長崎との落差が失望を強める。昨年の長崎平和宣言で田上富久市長は「核兵器禁止条約を『ヒロシマナガサキ条約』と呼びたい」と述べ、政府に一日も早い参加を要請した。田上市長は先月末の記者会見で「(宣言で)政府に条約に賛同するよう求める」とした。

 広島は、なぜ訴えないのか。松井市長は1日の記者会見で「政府がやるべきことの方向は、おのずと分かる」と説明。ある市幹部は「批准の是非で対立するより、既に掲げた施策の有言実行を求める方が有益」と市長の意図を解説する。

 一方、日本政府が条約に反対する理由として、米国の「核の傘」が不可欠との主張を強める中、核抑止論を強く批判した宣言を評価する声もあった。非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))の川崎哲(あきら)国際運営委員(49)は「核による平和は幻想だ、と被爆の実態を基にあらためて語った」と強調した。

(2018年8月7日朝刊掲載)

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