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核禁止 「対話と協調を」 被爆73年 広島平和宣言 政府に役割要請

自国第一主義に警鐘

 被爆地広島は6日、原爆投下から73年の「原爆の日」を迎えた。広島市は平和記念公園(中区)で原爆死没者慰霊式・平和祈念式(平和記念式典)を営んだ。松井一実市長は平和宣言で、日本政府に対し、核兵器禁止条約の発効に向け、国際社会に「対話と協調」を促す役割を要請。直接的な表現で条約の批准を求めなかった。安倍晋三首相は、式典後の記者会見で改めて条約に不参加の立場を表明した。(野田華奈子)

 昨年7月に制定された条約は、被爆地の期待を集めた一方、発効への道のりは遠い。米国の「核の傘」に頼る日本政府は反対の姿勢を貫く。松井市長は条約を「核兵器のない世界への一里塚に」と強調。署名・批准を要請する意図を込め、政府に発効への主導的役割を担うよう求めた。

 条約制定に貢献した非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン)、本部スイス・ジュネーブ)が昨年12月、ノーベル平和賞を受賞したことに触れ、「被爆者の思いが世界に広まりつつある」と評価した。一方、世界で「自国第一主義」が台頭し、核兵器の近代化などが進む状況に「東西冷戦期の緊張関係が再現しかねない」と懸念を表明。廃絶に向け、理性に基づく行動を継続するよう政治指導者に求めた。

 安倍首相は、あいさつで核兵器のない世界の実現を「わが国の使命」としたものの、条約について昨年に続き言及しなかった。式典参列後、中区での記者会見で「参加しない」と重ねて条約不支持の立場を表明。「核兵器国と非核兵器国の橋渡し役として信頼関係の再構築を目指す」と強調した。

 平成最後となった原爆の日の式典には、約5万人が参列。米国のウィリアム・ハガティ駐日大使がトランプ米大統領就任後初めて出席した。米国の駐日大使の出席は3年ぶり。海外代表は米国を含む85カ国と欧州連合(EU)、都道府県の遺族代表は40人だった。

 原爆投下時刻の午前8時15分には、遺族代表とこども代表が突く「平和の鐘」を合図に、全員で黙とう。小学6年の代表2人は「73年前の事実を、被爆者の思いを伝える伝承者になる」と「平和への誓い」を述べた。この1年で亡くなった広島の被爆者5393人の名前を記した原爆死没者名簿が原爆慰霊碑に納められ、115冊計31万4118人になった。

平和宣言の骨子

・世界にいまだ1万4千発を超える核兵器がある。核兵器がさく裂したあの日の広島の姿を再現させ、人々を苦難に陥れる可能性が高まっている。被爆者の訴えは核兵器を手にしたいという誘惑を断ち切るための警鐘で、その声に耳を傾けることが一層重要になっている
・ICANがノーベル平和賞を受賞し、被爆者の思いが世界に広まる一方、自国第一主義が台頭し、核兵器の近代化が進む。核兵器廃絶への取り組みが、各国の政治指導者の「理性」に基づく行動によって「継続」しなければならない
・指導者に対し、核兵器禁止条約を核兵器のない世界への一里塚とするための取り組みを要請。日本政府には、条約発効に向けた流れの中で、国際社会の対話と協調を進める役割を果たすよう求める
・朝鮮半島の緊張緩和が平和裏に進むことを市民社会は希望している。核兵器廃絶を人類共通の価値観にしていかねばならないと呼び掛ける

(2018年8月7日朝刊掲載)

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