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大学に被爆者派遣へ 山口のゆだ苑50年 活動見直し 体験継承に力

 被爆73年を迎え被爆者が老いる中、山口県原爆被爆者支援センターゆだ苑(山口市元町)が組織の設立50年を節目に活動の見直しを進めている。「原爆の日」の6日は猛暑を避け追悼式の会場を初めて屋内に移した。比較的元気な被爆者を大学に講師で派遣する構想など被爆体験を若者に伝える活動にも新たに取り組む。(門脇正樹)

 6日午前8時、ゆだ苑事務局がある県自治労会館で式典が営まれた。例年は山口市江良の原爆死没者之碑前で開いていた。冷房の効いた屋内に集まった約20人を前に、岩本晋理事長(75)は「異常な暑さが続く中、被爆者を太陽の下にさらすことはできない」と会場変更の理由を説明。祭壇への献水、献花ともスムーズに進んだ。

参列者に好評

 県被団協の森田雅史会長(75)は「本当は碑前でやりたかったが、皆さんのことを思うとやむを得ない」と理解を示した。他の参列者からも「体が楽だった」「参加しやすい」との声が上がり、ゆだ苑は来年以降も屋内で実施する予定でいる。

 ゆだ苑は1968年5月11日、湯田温泉街の一角で温泉付き保養施設として誕生。バブル期の90年代に周辺で温泉宿が相次ぎ開業し経営難に陥った。95年に建物を売却し、跡地に建った県自治労会館に事務所を移し、被爆者援護と平和運動を軸に再出発した。

 それから20年余。ことし3月末現在の県内の被爆者数は2602人と半世紀前の半数以下で平均年齢は83歳を超える。ゆだ苑に協力して学校で被爆証言する人は13人しかいない。活動費で積み立てた基金も残り1千万円程度となった。

 こうした現状を受けゆだ苑は5月、今後の在り方を探る検討委員会を発足。原爆死没者之碑の管理などは順次、協力する自治労県本部などに委ねる方針を確認した。

 検討委では被爆体験を語り継ぐ対象の拡大も議論。小中学生が主な対象だったが、県立大(同市桜畠)の講座に被爆者を講師で派遣する方針を決めた。

「上の世代に」

 ゆだ苑の評議員でもある加登田恵子学長(62)は「平和教育は中学までしかやらないのがほとんどで、より上の世代に伝える趣旨に賛同する。どういう形で協力できるか検討したい」と前向きに受け止める。岩本理事長は「過去50年の歩みに縛られず柔軟に取り組んでいきたい」と決意を新たにしている。

(2018年8月7日朝刊掲載)

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