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連載・特集

願い込め 被爆者が折る「平和のハト」 広島・舟入むつみ園 次代に託す「使者」

 朝刊くらし面の連載「自分らしく老いる 被爆者と医師の対話から」に「平和のハト」の写真を載せたところ、折り方を知りたいという声が中国新聞社に相次いで寄せられた。広島市中区の原爆養護ホーム「舟入むつみ園」の入園者が折り、園を訪れる子どもたちに託す平和の使者だ。全国、世界に羽ばたいてほしいと願って、折り方を教わった。(衣川圭)

 「尾の部分を引っ張るとほら。羽が動くんですよ」。入園者の星野桂子さん(72)は、にこっと笑って完成したハトを羽ばたかせた。平和のハトの折り方は、途中までは折り鶴と同じだ。後半に地面に下がる太い尾羽をこしらえる。翼を広げた姿形は、8月6日の平和記念式典で大空に飛び立つハトを思い起こさせる。

 現在の広島市中区で胎内被爆した星野さんに、あの日の記憶はまったくない。園を訪れる子どもたちに被爆体験を語る平和学習には参加できない。だから、ハトを折って協力したいという。「学びにくる子どもたちが幸せに暮らせるよう、一羽一羽に気持ちを込めています」と力を込める。

 元入園者が7、8年前に作り始めた。恐ろしい記憶がよみがえるので、被爆体験はどうしても語れないという女性だった。「せめてハトを折るから、子どもたちに託してください」。昨年2月に退所するまで、1人で折り続けた。

 大知裕(ゆたか)園長の勧めもあって、入園者の有志が昨年4月に活動を引き継いだ。核兵器廃絶の願いを込め、現在は10人ほどで折っている。平和学習で訪れる子どもたちだけでなく、外国からの訪問者にも手渡され、韓国やネパール、米国、オーストリアにも飛び立った。

 折り方を知りたいという声が多くあることに驚いた星野さん。「子どもたちに作ってもらうのもいいですね。ハトを折りながら平和を思う気持ちが強くなれば」と願っている。

折り方はこちら

(2018年8月7日朝刊掲載)

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