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社説・コラム

社説 島根原発3号機 30キロ圏を「地元」とせよ

 国内で史上最悪の福島第1原発事故後、初めての新規原発の稼働となるのか。中国電力が申請を目指す島根原発3号機の新規制基準適合性審査で、立地自治体の島根県と松江市が申請を容認する考えを表明した。中電はあすにも原子力規制委員会へ申請する見通しだ。

 新規原発の審査申請は、建設中の電源開発大間原発(青森県)に続き2例目となる。島根3号機はほぼ完成しており、福島の事故後では初の新設となる可能性がある。

 本来なら30キロ圏内の鳥取県と両県5市も、この地元手続きに加わるべきだったのだろう。中電は5月下旬、島根県と松江市に事前了解を求めたのに対し、周辺自治体の鳥取県と5市には「報告」にとどめた。それぞれが中電と結ぶ協定に格差があるからに他ならない。少なくとも30キロ圏内は、稼働の可否に関与する「地元」となるよう、早急な改善が必要である。

 福島の事故後、国は原発から30キロ圏内の市町村に住民避難計画の策定を義務付けている。事故が起きれば、影響を被る恐れがあると言っているのに等しい。実際、福島の事故では、30~50キロ離れた飯舘村にも放射性物質が飛散し、6年近く全域が避難区域となったことを忘れてはならない。

 日本原子力発電(原電)は3月、東海第2原発(茨城県)の再稼働や運転延長を巡り、30キロ圏内にある周辺5市と新たな安全協定を結んだ。「事前に了解を得る」ことが明記されている。30キロ圏内を「地元」とする動きは既に始まっているのだ。

 住民の生命と財産を守るのは自治体の責務である。3号機が新たに稼働すれば、廃炉作業期間も含めて最長で約100年にわたり、地域は原発と向き合わざるを得なくなる。子や孫の世代にも事故などのリスクを負わせることになる。

 だからこそ、鳥取県も5市も立地自治体と同レベルの安全協定の締結を中電に再三求めている。中電は「引き続き誠意を持って協議する」などと答えているが、動きは鈍いと言わざるを得ない。事前了解を求める対象が増えるのを敬遠していると思われても仕方あるまい。

 避難計画の策定を義務付けた国にも責任があろう。義務だけ押し付けるのはおかしい。全国で原発が立地する30キロ圏内の自治体と電力会社が協定を結ぶよう促すのが筋ではないか。

 自治体側にも自覚が求められる。原発稼働の可否に関わるようになれば、住民への責任も増す。規制委の「お墨付き」を追認するだけでは、許されないだろう。懸念する住民の立場にも立って、審査の議論を見守るのが当然である。

 島根原発を巡っては、1号機の廃炉作業が昨年7月に始まり、2045年度の廃炉を目指している。2号機は13年末に新規制基準の審査を申請したが、原発近くの宍道断層の長さに疑問が相次ぐなどし、終了のめどは立っていない。申請時は全長22キロと評価していたが、最終的に39キロに延長して了承された。

 規制委は2、3号機の審査を並行して行わない見通しを示しており、まずは2号機再稼働の可否の判断が求められる。遅くともそれまでに中電は、鳥取県と5市にも立地自治体と同じ権限を与えるべきである。

(2018年8月9日朝刊掲載)

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