×

ニュース

米艦載機の岩国移転遅れは3年程度 政務官、地元に説明

 岩国市の米海兵隊岩国基地への空母艦載機移転について、防衛省の左藤章政務官は25日、山口県庁で山本繁太郎知事と、岩国市役所で福田良彦市長とそれぞれ会談した。当初予定していた2014年までの移転時期が3年程度遅れると伝えた。

 左藤政務官は、艦載機部隊を受け入れる岩国基地内の家族住宅などの工事が遅れていると説明。「日米間で施設整備の工程を見直した結果、17年ごろになる見込みとなった」と述べた。

 防衛省は、10年度に買い取り予定だった岩国市の愛宕山地域開発事業跡地を昨年3月、米軍住宅用地として県住宅供給公社から取得した。その際、跡地に市民が使える野球場などの運動施設も計画。跡地での住宅戸数を減らし、基地内に振り分けた。建設計画の変更に伴い、工事の遅れが生じたという。

 山本知事と福田市長は会談で、米軍普天間飛行場(沖縄県)移設の見通しが立たない間の移転を認めないとする基本スタンスを強調。2人とも移転時期の遅れについて理解を示した。

 日米両政府は06年、在日米軍再編のロードマップ(行程表)に合意。米海軍厚木基地(神奈川県)から岩国基地へ艦載機59機を移転する計画を進めてきた。(酒井亨、金刺大五)

玉突き しわ寄せの構図

 「岩国基地内での大規模な玉突き工事が原因」―。米海軍厚木基地(神奈川県)から米海兵隊岩国基地(岩国市)への空母艦載機の移転が3年程度延びる理由を、左藤章防衛政務官はそう説明した。背景には、岩国市での米軍住宅建設の計画変更がある。

 左藤政務官の「玉突き」とはこうだ。

 岩国移転計画で、国は米軍住宅千戸余りを岩国基地近くの愛宕山地域開発事業跡地に建設するつもりだった。だが「市民も享受できる施設を」との市の要望を受け、野球場などの建設も追加。その分住宅戸数は約270戸に減り、残る約800戸は基地内への建設に変更された。

 この結果、基地内での住宅用地確保のため、既存の駐機場、格納庫、洗機場などを移設する必要性が新たに生じた。現在、移設に向けた調整が続いている。

 そして、「玉突き」のしわ寄せを厚木基地の周辺住民が受ける。

 24日、国から説明を受けた関連自治体の首長から「仕方ないと言える状況ではない」「納得できない」と不満の声が噴き出した。

 沖縄の負担軽減を目的とした米軍再編計画。普天間飛行場(沖縄県)の移設問題は迷走を続けている。加えて艦載機移転の前提条件である陸上空母離着陸訓練(FCLP)の恒常的施設の特定も滞る。いずれも背景には、負担を強いられる地元の反発がある。

 再編が生んだたらい回し。沖縄国際大大学院の前泊博盛教授(基地経済論)は「移転の時期が問題ではなく、地方同士のひずみを生む日米安全保障体制を見直す議論こそ必要だ」と指摘する。(大村隆、堀晋也)

<米空母艦載機の岩国移転をめぐる動き>

2005年10月 国が14年までの艦載機移転 方針を伝達。井原勝介岩国市 長は「容認できない」と拒否
  06・ 3  岩国市が移転受け入れめぐり住民投票。投票者の87%が反対
      5  日米両政府が米軍再編最終報告に合意
  08・ 2  市長選で衆院議員から転身した福田良彦氏が井原氏を破る
      3  福田市長が政府に艦載機移転への「理解と協力」を伝える
  09・10  政府が艦載機移転を、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設の結論が出るまで先送りする考えを
         示す
  10・ 5  約1キロ沖合へ移設した岩国基地の滑走路運用開始
      9  政府が岩国市の愛宕山跡地に、艦載機移転に伴う米軍住宅や運動施設を造る施設配置案を説明
  11・10  政府が県などに愛宕山跡地を買い取る意向を伝える
  12・ 3  山口県住宅供給公社と国による愛宕山跡地の売買契約が成立
      8  山本繁太郎知事が就任。基地問題のスタンスは二井関成前知事を引き継ぐと表明
  13・ 1  政府が艦載機移転時期について17年ごろに遅れると伝達

騒音懸念の住民ら安堵 経済効果遅れに失望も

 米海兵隊岩国基地への空母艦載機移転を3年程度延期すると左藤章防衛政務官から県、岩国市に伝えられた25日、住民は騒音被害拡大が先延ばしされることに安堵(あんど)した。移転に反発する市民は「延期を繰り返させるよう反対を続ける」。容認派の市民は部隊移転による経済効果の遅れに失望感を示した。

 工事車両が出入りする基地周辺。米海軍厚木基地から59機の受け入れ工事が進む。艦載機はFA18スーパーホーネットが大半。「この機種が飛行すれば騒音は増大する」と基地に隣接する車町の車第3自治会元会長の高林孝行さん(72)。「移転することに変わりはないが、来ない方が良い」と延期にひとまず安堵した。

 左藤政務官が市庁舎に福田良彦市長を訪ねた昼下がり、移転反対の約30人が庁舎前に集まった。愛宕山地域開発事業跡地に建設される米軍住宅の一部、約270戸の実施設計がことし3月、発注される予定。「延期は反対運動の効果と思う。今後も粘り強く続ける」と愛宕山を守る会の天野一博事務局長(61)。「愛宕山に米軍住宅はいらない」。メンバーと庁舎に叫んだ。

 外国人を対象にした地元の飲食店からは落胆の声も出た。「お先真っ暗だ」と基地近くでバーを営む永峯守俊さん(73)。ここ数年、周辺で相次ぎ店が閉まる中、軍人たちの移り住む2014年に向け蓄えを切り崩しながら経営してきた。米軍人の事件事故を受けての夜間禁酒措置も続き、「いよいよ追いつめられた」とこぼした。(堀晋也)

(2013年1月26日朝刊掲載)

年別アーカイブ