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社説・コラム

天風録 『沖縄の誇り』

 那覇市長だったその人は、5年前のある出来事を機に「自民党本流」を離れることになった。沖縄県内の全首長とオスプレイ配備撤回を訴え、東京銀座をパレードした時、沿道から思わぬ暴言を浴びる▲急逝した翁長雄志(おなが・たけし)知事である。「売国奴」「琉球人は日本から出て行け」…。本土の無理解と無関心が衝撃だったと著書にある。危機感が「イデオロギーよりアイデンティティー」へと突き動かす。新たな米軍基地の建設は許さないと、オール沖縄を旗印に翌年の知事選を戦った▲「子や孫へ誇りある沖縄を」が口癖だった。物おじせず国と厳しく向き合ったのは、沖縄の自己決定権を求める強い信念があったからに違いない。志半ばで世を去った無念はいかばかりだったか▲戦時中に制限されていた島言葉(しまくとぅば)を大切にしたのも沖縄の誇りに訴える狙いがあったのだろう。辺野古移設反対の県民大会で「うちなーんちゅ、うしぇーてーないびらんどー」(沖縄人をないがしろにしないで)との言葉は県民の思いを代弁していた▲「万策尽きたら辺野古のゲート前に座り込む」。そう妻と約束していた。悲壮な覚悟をないがしろにせぬよう、本土が無関心なままではいけまい。

(2018年8月10日朝刊掲載)

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